新型コロナウイルス禍によって、オフィスや居住空間の役割はどう変わったのか。100年、200年先を見据えた都市づくりを担う森ビル・辻慎吾社長に、WiL代表・伊佐山元が聞く。大規模プロジェクトを何十年もかけて完成させるビジネスに、必要な人材、必要な志とは。

(構成:佐藤友美)

辻 慎吾(つじ・しんご)
辻 慎吾(つじ・しんご)
森ビル代表取締役社長、不動産協会副理事長。1960年広島県生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科で建築と都市計画を専攻し、85年森ビル入社。2001年タウンマネジメント準備室担当部長。06年取締役六本木ヒルズ運営室長兼タウンマネジメント事業室長。09年から副社長として新設の経営企画室長を務め、11年より現職(写真:的野弘路)

新型コロナウイルス禍の影響で、今後もリモートワークが定着しそうです。オフィスや住宅の概念が変わろうとしている今、辻さんはこの変化をどう捉えていますか?

 一番重要なポイントは、「世界中の人が一斉に同じ経験をした」ということです。これまでもインパクトのある経験はいくつもあったけれど、それらは、例えば「ヨーロッパでの出来事。日本では関係ない」といった地域的な出来事でした。

 でも、今回のコロナ禍に関しては、世界中が同時に同じ経験をしている。だから、ある地域から何かが徐々に変わるのではなく、全世界で一気にルールが変化するはずです。変化の度合いとスピード感がこれまでとは全然違います。

 あらゆる人々の活動基盤である「都市のあり方」も改めて問われていると感じます。ただ、変化に対応することはもちろん重要ですが、変化に追いつくことだけを考えていると、あらぬ方向に行ってしまう危惧も感じています。我々は、100年、200年と続く都市のあり方を考えていかなくてはならないので、「変わるもの」だけではなく、「変わらないもの」が何なのかを見極めることが非常に重要だと思っています。

リモートワークが進めばオフィスは不要なのではないかという議論もありました。

 たしかに会社に出社しなくてもアイデアは出せるし、事務作業も家でできます。今まで会社でやっていたことが、家でもできることに気付いたのは「変わった」部分です。一方で、リモートではできないことがあることにも、全世界の人たちが同時に気付きました。それは例えば、人と人が出会ってディスカッションをすることの重要性。特にクリエーティブな仕事で何か新しいことを興そうとするのは、リモートでは難しいことが分かりましたよね。

 GAFA(アルファベット、アップル、メタ=旧フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)のうち3社が日本では森ビルの入居テナントです。IT企業はリモート環境でも働けるケースが多そうですが、彼らはオフィスのレイアウトを変えて、むしろオフィススペースを増やそうとしています。新しい価値を創造するためには、チームが刺激しあう「場と仕掛け」が不可欠だと考えているわけです。世の中ではオフィス不要論も議論されていますが、私は、全然そんなことはないと言い続けています。