新規事業を軌道に乗せる人は現場に足を運ぶ

新領域を開拓できる人材とは、どんな人材でしょうか?

 外部との幅広いネットワークをつくり、まずは自らが動き回って、自らの五感で新しい「知の探索」ができる人材なんでしょう。どんなバックボーンの人でも、与えられたチャンスをしっかりと磨いて、実現してみせるという強いチャレンジ精神があれば、可能性は開けると感じています。

 例えば、ドローン事業や宇宙事業、そして先ほど言ったアバター事業などを進めているデジタル・デザイン・ラボのメンバーや卒業生は、伊佐山さんのシリコンバレーのオフィスを訪ね、実際に新規事業が生まれる現場の風を感じた経験があります。こういった刺激を受けると、人は自然と育っていくのではないでしょうか。

 さらに言えば、新規事業を軌道に乗せる人は、とにかく現場に足を運びますよね。例えば、ホノルルのチャーター便がスタートする際、責任者は実際に見送りにいらしたお客さまにインタビューに行っているんです。すると、「このチャーター便は、ものすごく支持されている。だから、値段は安くしなくてもいい」といった、マーケットインの考え方ができるようになります。

 これは、本当に大事なことだと思います。特に、本社に居座っていると、苦労せずなんでも情報が入ってきます。しかし、気を付けなくてはならないのは本社の椅子に座っているだけでは見えないことがあるということ。現場でじかにお客さまの声を聞いて、初めて分かることがあります。

動ける人の重要性は、まさに私も感じています。WiLを立ち上げたときに掲げたキャッチフレーズのひとつが「ThinkerからDoerへ」でした。日本の企業には「Thinker」は多いのですが、徹底した現場主義でカスタマーの声を聞ける「Doer」が少ないと感じていたからです。

 まさに、つい最近私が社員に出したメッセージが「ANAは動く会社だ」という言葉でした。先ほどの話にもつながりますが、ANAは伝統的に、動く会社なんですよね。業界では後発企業だったということもありますが、とにかく実際に動く。

 もちろん、全員が動き回っていたら部屋に誰もいなくなりますから、落ち着いた「Thinker」もいます。しかし、「Thinker一筋」という人は少ない。ずっと考えているばかりではなく、ある時は考え、ある時は動く。キャリアパスでも、それを工夫していかなくてはと思っています。

 最近、私は「個人名をもっと出そうよ」と提案しています。日本の企業では「広報としては」とか「経営企画としては」というように、ついつい組織名で語ってしまう。それを、個人を主語にしていきたいんです。

 実際、何か新しいことを進めるときに、そのポリシーをつくっているのは1人です。社内で個人名が共有されていくと「あの人が欲しい」という話になる。すると、自然と人材のミスマッチが減っていくと思います。

 近年、ANAグループでは、「公募」のシステムを利用して異動する人が増えています。個人の価値をより強く自身で認識する人が増えていると感じています。

 また、今は1000人を超える社員が社外に出向しています。出向先で刺激を受け、戻ってきてからも仕事に生かしたいと語ってくれる社員が非常に多い。副業や兼業を認めたことで、新しい仕事に挑み始めた社員もいますし、サバティカル休暇(使途に制限のない長期休暇)を取って、これまでできなかったことに時間を費やしている社員もいます。コロナ禍によって、一律ではない「個」の働き方が進んでいます。

 社外に対しても同じです。今はこういう時代ですから、ヘッドハントを受けたり、自分の希望で会社を卒業していったりする人も多い。私たちは、こういう動きを奨励はしていませんが、激励しています。

 これからは、「個人」を考える時代。コロナに苦しむ航空会社で当面自分のやりたいことができないと思うのであれば、外に飛び出そうと考える選択肢も応援します。それが我々の経営難に端を発しているのは申し訳ないけれど、そういう人たちを尊敬する気持ちに偽りはありません。ANAで働いていた人の能力やバイタリティーが外部で発揮され、「あの人は元ANAだ。さすがだね」と、外でPRしてもらえればいいなと思ってエールを送っています。

シリコンバレーは、まさにその発想です。自分の会社の元社員が活躍して有名人になればなるほど、誇らしいと感じる。それが、シリコンバレーのように人材の流動性が高いところの共通の考え方です。でも、日本の会社ではそう考えられる人がなかなかいないのはなぜでしょうか。

 日本でも今後、ミレニアル世代やZ世代は、ますます気軽に仕事を変えていくでしょう。短期間でスキルの向上や好待遇を求めて転職を繰り返すジョブホッパーが増えるとみています。

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