コロナ禍で大打撃を受けている航空業界。こうした中で、ANAグループは、ドローン事業、アバター事業、宇宙事業など次々と新規事業を推進している。

 新領域へのチャレンジができる人材は、いかに育つのか。WiLベンチャーファンドにも出資しているANAホールディングスの片野坂真哉社長に話を聞いた(構成:佐藤友美)。

<span class="fontBold">片野坂真哉(かたのざか・しんや)</span><br>ANAホールディングス代表取締役社長。1955年、鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業後、1979年全日本空輸(ANA)に入社。 2004年人事部長に就任。上席執行役員、常務、専務、ANAホールディングス副社長などを経て15年4月から現職。(写真=的野 弘路)
片野坂真哉(かたのざか・しんや)
ANAホールディングス代表取締役社長。1955年、鹿児島県生まれ。東京大学法学部卒業後、1979年全日本空輸(ANA)に入社。 2004年人事部長に就任。上席執行役員、常務、専務、ANAホールディングス副社長などを経て15年4月から現職。(写真=的野 弘路)

片野坂さんで強烈に記憶に残っているのが、経済産業省が主催したイノベーター育成プログラム「始動Next Innovator 2017」での講演です。多くのベンチャーが聞き入る中、数々の失敗談を披露しました。一般的に社長のスピーチはその実績に重きを置いているものが多いにもかかわらず、なぜ失敗談をここまでオープンにするのでしょうか。

 普段からよく失敗の話をします。失敗談には事欠きませんよ。例えば、「1日1万円乗り放題運賃」。創業50周年という節目だった2002年の年末にリリースし10万席が一瞬にして売り切れました。当時、最大で9区間買ってくださったお客さまがいらして「子どもと楽しく9区間乗るのを楽しみにしていたのに、2区間目で飛行機が遅延して乗り継げなくなった」とお叱りを受けました。「飛行機は遅れるものだ」という認識が我々に抜けていたんですね。

 加えて、今でも言われるのが、2010年にサービスを開始した「Inspiration of JAPAN」。このサービスコンセプトの中で、液晶のタッチパネルで食事をいつでも注文できることを一つの売りにしていたのですが、いざ実際のサービスでは、注文してから4時間たっても食事がこない、ファーストクラスのお客さまが少し休まれてから食事を注文しようとしたらご希望の料理がもうなかったなど、実オペレーション上の課題が頻発しました。

 同じく2010年の国内線の新サービスとして目玉だった生ビールの提供も、上空でサーブすると気圧の関係で泡だらけになってしまうといった具合で散々。現場からもキャビンアテンダントが常に食事の準備をしておかなくてはならないと甚だ不評でした。すぐに元に戻そうとなったのですが、元に戻すにも3カ月かかるんですよね。現場はその期間、お客さまからたくさんのお叱りの声を頂戴するわけです。

 社長になってから国際線に乗務したとき、最初ニコニコしていたチーフパーサーが「Inspiration of JAPAN」の責任者が私だったと知ると、突然顔色が変わって当時のクレームを言ってくるほどの失敗でした。

ANAグループは失敗に対して寛容な文化があるのでしょうか?

 「失敗を許容する社風はどのように生まれたんですか」と聞かれることがあります。ただ、私はANAグループに失敗を許容する文化があるとは思っていません。そんなきれいごとではないのです。

 もちろん、私が失敗したときも大いに批判されましたし、批判されて当然だとも思っていました。役員会で謝罪もしました。だからこそ、失敗した人間は「次こそは」と思うし、失敗から学ぶことができる。

 新規事業を進めるときも同じです。「うまくいくのか?」「採算はとれるのか?」。そういった批判的な意見がちゃんと出てくることが大事なんですよね。

ANAグループは、これまでも様々な新領域へチャレンジを続けてきました。外野から「本業以外に手を出し過ぎじゃないか」「ANAは正気なのか」と言われることはありませんか?

 ありますね。特に今は、賃金をカットしたり、出向を進めたりと、様々な形で社員を守ろうとしているときです。「ドローンをやっている人たち、楽しそうでいいですね」「会社がこんな状況のときに、宇宙事業に投資している余裕があるんですか?」といった声が社内外から出ていることは、経営者として認識しています。

 そういうときには「今は9割の人が、飛行機を飛ばすことで頑張っている。一方で、将来のためには、ごく少数でも新しいことに取り組んでいく必要がある。それは必ず、将来に返ってくるから」と説明しています。

続きを読む 2/4 マジョリティーは得てして楽をしようとする

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