インターネット黎明(れいめい)期から、広告ビジネスの確立や市場拡大に尽力してきた、博報堂DYメディアパートナーズ・矢嶋弘毅社長。2017年の社長就任後、19年に発足した新規事業開発組織の「ミライの事業室」や、同年誕生した博報堂DYベンチャーズにおけるベンチャー投資など、いち早く将来を見据えた事業を描き、具現化してきた。広告の主戦場がデジタルに移った今、まさに大きな潮目を迎えているマス4媒体の広告は、今後どう変わっていくのか。そしてインターネット広告は今後どのように発展していくのか。WiL代表・伊佐山元が聞く。
(構成:佐藤友美)

博報堂DYグループは、新規事業開発を推進する「ミライの事業室」を持ったり、博報堂DYベンチャーズのようなコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を持ったりしていますよね。矢嶋社長は、早くから「広告の次の形」を模索されてきたように感じます。
(通信規格が)4Gから5G(高速通信規格)へとインフラが進化してきた頃、メディアは大きく変わるし、僕らのビジネスも変わると感じました。「印刷技術をベースにした広告ビジネス」「放送技術をベースにした広告ビジネス」に、「通信」がプラスされるとき、どのようなビジネスがあり得るかを考えなくてはと思ったのが第一ですね。ゲームやEC(電子商取引)という道もあるけれど、まずは「広告」の領域で、新規事業を考えていこうと。
我々のように広告会社が新規事業を考えるケースもあるけれど、いろんな業種からの参入障壁が低くなっていくはずだから、逆に広告事業に新規参入してくる企業もあるはずだ。その前提で新しい事業を考えようとしているのが「ミライの事業室」です。私たちなりの深化と探索、両利きの経営のようなものでしょうか。
三井物産さんとの共同事業である「shibuya good pass」のような生活者との共創型まちづくりサービスや、Z世代を中心とした生活者の声を対象に脱炭素関連の商品やサービスを共創する「Earth hacks」など、これまでの広告会社としての枠を広げる事業に取り組んでいます。
博報堂DYグループはあらゆる業界のクリエーティブをサポートしてきた歴史がありますよね。新規事業をつくる際、これまでのクライアントのビジネスと衝突することがあるのではないでしょうか。
大きなコンフリクト(利益相反)が問題になるくらい、成長できる事業をつくれたら、それはむしろうれしいことかもしれませんが実際にはクライアントの競合になるのではないかということを、最初から真剣に考えるケースは、今のところはそこまでないと思うのです。むしろ、我々の強みの1つは社名にもあるように、「パートナー主義」。自社で100パーセントをつくるというよりは、パートナーと一緒に新しい事業をつくっていくというパターンが多いです。
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