伊佐山 元(いさやま・げん)
伊佐山 元(いさやま・げん)
WiL代表。パートナー企業(出資企業)に眠る社内IP(知的財産)を活用した新規事業創出や企業内起業家の育成にも力を入れている(写真=山田愼二)

経営のトップは「自由にやれ。挑戦してよい」と言うものの、中間管理職の方が「いや、余計なことをするな。失敗したら自分が困る」とブレーキをかけるシーンをよく見てきました。多くの企業でぶつかる壁です。そこを乗り越えるために、どんな工夫をされていますか?

 社員だけではなく、ボードメンバーに対しても「挑戦しない人はこのチームにいらない」と発信し続けています。「まず隗(かい)より始めよ」ではないですが、マネジメント陣から変わっていかないといけない。これからは、減点主義ではなくて加点主義・挑戦主義、「3打数2安打よりも20打数5安打を評価する」と伝えています。

 とはいえ、巨艦のまま会社を動かそうとすると、どうしても動きが鈍くなる。右向け右と言っても、空母サイズだと曲がるのに半年ぐらいかかってしまうこともあります。ですから、グループの中でも比較的小回りのきく、日新火災海上保険やイーデザイン損保、あるいは東京海上グループの中の新規事業に挑戦する部門などについては、仕事の仕方、採用の仕方や評価の仕方も変えながらやっていく。それぞれが一定のリスクを取りながら、仮説検証をして得たものをまたグループ全体の中で共有していくイメージです。

小宮社長自身、過去、どのような失敗をされてきましたか?

 失敗したことはありません(笑)。というのは半分嘘で半分本当です。というのも、失敗は山ほどありますが、失敗を失敗のまま終わらせず、成功するまでしつこくいつまでも食い下がるから、結果失敗とは言い切れない、というカラクリです。

 もちろん、数え切れないほど怒られてきました。元来褒められて伸びるタイプなので、怒られるたびにがっくりへこみます。でも、真剣に走って転ぶと、不思議とまた起き上がれるものなんですよね。

東京海上は、私が就職活動をした25年前から、いまだ就職人気ランキングの上位企業ですよね。偏差値の高い、減点主義社会で一番失敗しなかった人たちに「どんどん挑戦しろ」「自分が100点取れるものばかりやるな」と言っても、リスクを取りにくいのでは?

 そこはやはり、先ほど触れた多様性を持った社員の登用ですよね。同じような部署を出て選抜されてといったヒエラルキーの構造を変える。他社でいろんな経験をした人や、事業を立ち上げた経験を持っている人などを迎えて、知的コンバット(闘争)が起きる場をつくっていくことが大事だと思っています。

 今、私どもは「真面目な話を気楽にしよう」というコンセプトで「マジきら会」という若手から経営陣まで話をできる車座のような場をつくっています。ここではマネジメント層が、自分の挑戦や失敗の経験を話すこともあります。こういった取り組みは時間もかかりますが、ここを頑張っていかなければならない。

 様々な経験を持ったメンバーが、ちゃんと居心地よく働けているか、今、元気で頑張れているか。この「マジきら会」や、個別の面接などでケアしていくことも大切だと考えています。

今、「元気」という言葉が出ましたが、リモートワークが日常化してきた最近の米国では、社員の心のケアも大きな課題になっています。

 私もまさに、そこは重要だと考えています。実は、今年のお正月にグローバルに向けて発したメッセージも「笑顔」という言葉でした。このコロナ禍で多かれ少なかれ、世界中の全ての人たちが傷付いたり孤独を感じたりしています。そんな時代だからこそ、我々は、何でも遠慮しないで声を上げていこう、気づいたことは笑顔で話そうと言い合っています。

 私ごとですが、昨年末、毎週のようにリモート会議をしているグループカンパニーのトップが契約の更新を迎えるので、米国に会いに行ったんです。その彼とのディナーの時、英語で「いやあ、寂しくなるよ。泣きそうだ」と言ったら、驚いたことに本当に涙が出てきましてね。毎週のようにオンラインで会っているはずの仲間なのに、やっぱりリアルで会うのは違うなと感じました。

 東京海上グループもコロナでダメージを受けましたから。そんな中で、みんな踏ん張って頑張ってきたんだなと思うと、思わず気持ちが入ってしまいました。少し情緒的な言い方かもしれませんが、「一人じゃないぞ」ということを、グループ内で丁寧に丁寧に伝えているところです。こういった空気の醸成が、いろんな挑戦をしやすい雰囲気につながるとも考えています。

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