ヘルスケアも同様です。AI(人工知能)を利用して、例えば米アップルの「Apple Watch」などから収集できるヘルスケアデータを活用して、疾病の予兆検知やお客様の行動変容につながるサービスを開発しようとしています。それでも、万が一事故が起こってしまったり、病気になってしまったりしたときは、もちろん、従来型の保険でカバーをしていく。
保険の手前の課題解決や、損害を防止するサービス、再発防止や早期復旧・復興などをバリューチェーンで提供できるような事業を進めていこうと考えています。こんな時代だからお客様の「いざ」を支えるというパーパス(目的)は最も重要だと思っています。
しかし、パーパス以外は全て変えていってもよい。変えてはいけないものは何もないという精神で臨まなければ。去年からスタートした中期経営計画2023でも、成長への変革と挑戦というスローガンにその思いを込めています。
そうすると、今後はモビリティーのエキスパートやヘルスケアのエキスパートが必要になってきますよね。採用はどうなるのでしょう。米国のように、新卒3割、中途採用が7割のような雇用になっていくのでしょうか。
今後は、新しいビジネスの仮説検証サイクルをできるだけ高速で回転させ、多くの意思決定を素早くしていかなければなりません。新卒一辺倒だけでは、ただちに必要な人材が集まらないし、そもそも多様性が低いと考えています。
国内・海外を合わせたグローバルで考えると4万7000人くらいの従業員がいます。出入り自由の採用システムを取っていることもあり、もともと多様化しているともいえる。こうした人材をどのように適材適所を考慮しながら育てていくか、既に着手しています。
日本でも、法務やIT(情報技術)、セキュリティー、あるいはコンプライアンスのような部署で、高度に専門性を持っている人材を採用しています。データサイエンティストを「保険が分かるデータサイエンティスト」に育てたり、その逆で、保険が分かっている社員をデータサイエンティストに育てたりなどの取り組みが必要だと考えています。東京大学大学院・松尾豊教授の監修もいただいて、「Data Science Hill Climb」といったデータサイエンティストの専門人材育成プログラムも運用開始しました。
成長戦略の一丁目一番地は、やはり多様性なのです。キャリア採用を増やす方法もありますし、現在「30% Club」という英国発のキャンペーンに参加していますが、ジェンダーや人種の多様性も考えなくてはならないと思っています。
多様性を重視した人材採用が一歩目だとしたら、次の一歩はインクルージョン(包括)ですよね。そういう人たちは本当に活躍できているのか、迫力を持った発言ができているのか。単純に女性管理職を3割にすればいい、半分にすればいいといった話ではない。
まったくその通りです。この数年、グループの中でも大事な意思決定の場に「どれだけ多様な構成メンバーがいるのか」を重視しています。東京海上日動ですと、常務以上がやる経営会議や営業戦略会議にも、支店長や部長・次長クラスの女性メンバーに来てもらって意見を求めています。ハッとさせられる迫力のある意見を出してくれます。
一方で、登用にはまだまだ課題があると認識しています。従来の積み上げ型の人事制度だけでは、なかなか多様な人材が登用されない。ある程度、トップに近い人間が自分の目で人と会い、意思決定をする必要も感じています。
東京海上日動では、2030年度までには女性管理職の3割を女性にしますと宣言していますが、そういう目標設定があること自体は、悪くはないと思っています。ただ、多様性がなぜ必要かというと、いろんな経験の違い、見方や角度の違いが重要なので、男性・女性だけではないんですよね。年齢層やキャリアなど、「掛け算での多様性」も加速していかなくてはと考えています。
先ほど、仮説検証サイクルを高速で回すという話がありましたが、新規事業に取り組むには、チャレンジを推進する文化が重要になりますね。
明日につながる挑戦に、グループ総動員で向かわなくてはならないと考えています。例えば、第一線の現場で気づいた新しいビジネスモデルの提案から事業化を目指す社内公募制プログラム「Tokio Marine Innovation Program」を立ち上げたり、他部署のプロジェクトに社内副業システムで参画できる「プロジェクトリクエスト制度」といった仕組みをつくったりして、社員の挑戦を後押しできるようにしています。
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