この数年は新機軸の事業開拓に取り組んでいる東京海上グループ。世界規模で起こる課題や変化のうねりに直面し、今まさに転換点に立つ。

 掲げているコンセプトは「“いざ”だけでなく“いつも”支える存在へ」。リスクソリューションのバリューチェーンを整えると東京海上ホールディングス取締役社長グループCEO(最高経営責任者)の小宮暁氏は意気込む。人材の登用や、挑戦するマインドを支えるべく、制度だけでなく時に情緒的な取り組みでも支えるという同社の取り組みについて、WiL代表・伊佐山元が聞く。(構成:佐藤友美)

小宮暁(こみや・さとる)
小宮暁(こみや・さとる)
東京海上ホールディングス取締役社長グループCEO(最高経営責任者)、グループカルチャー総括。1983年東京大学工学部卒。 同年東京海上火災保険(現東京海上日動火災保険)入社。 2015年東京海上ホールディングス執行役員経営企画部長、16年常務執行役員、18年専務執行役員を経て、19年6月より現職。(写真=的野弘路)

新型コロナウイルスの影響や、人口動態の変化など、劇的な変化が起こっています。現在の環境下において、東京海上グループはどのような立ち位置を取ろうと考えていますか?

 コロナが問題になる以前から、ビジネスや社会をめぐる環境は大きな構造的変化が起きていたと思っています。これはCEOになる前から話していたことですが、この変化を私は4つの観点から捉えています。

 1つめは、グローバル経済が進化する過程におけるきしみ。これは成長痛のようなものとも言えるでしょう。2つめは、難民の課題やテロリズムなど、地政学と結びついた課題。3つめは気候変動と地球環境の課題。そして、最後が最新テクノロジーへの対応です。この4つの大きな変化の中で、どう持続的なビジネスをしていくか。東京海上グループも、転換点に立っていると感じています。

 社会課題であり、リスクも増大してきているのは、自然災害。防災・減災の分野が重要になってきています。今や災害は、忘れた頃にやってくるという時代ではなく、定期的にやってくるものになりました。あるいは、人生100年長生きする観点に立ったヘルスケアの分野。これもメンタルヘルスも含めてニーズが高まっています。また、再生可能エネルギー分野やテクノロジーを使ったモビリティーの分野、様々な問題を抱えている中小企業の支援なども、向こう10年の重要な課題だと考えています。

東京海上といえば、自動車の保険会社というイメージがあります。しかし、今後、自動運転が普及すれば事故そのものがなくなるかもしれません。

 これまでは、「いざ」を支える会社でしたが、この「いざ」を支えるためには、「いつも」支えていなくてはならない。持続可能な開発目標(SDGs)の大きな 17の目標と169個の課題のロードマップを見たとき、東京海上グループに期待されているものは何か。異業種やスタートアップの皆さんと一緒になって提供していける価値は何か。そのバリューチェーンを整えて、ソリューションを提供する側になるのだという意気込みです。

 2021年7月に始動した東京海上ディーアールという我々のデータ戦略の中核にある会社と、PKSHA Technology(パークシャテクノロジー)とのジョイントベンチャーとして、AlgoNaut(アルゴノート、東京・文京)という合弁会社を立ち上げました。モビリティーでいえば、事故が起こらない方がよいわけですから、事故の予兆を検知するアルゴリズムを開発し、お客様向けのサービスとして提供できないかといったことを考えています。

 また、グループ会社のイーデザイン損害保険は、昨年11月にインシュアテック(保険とテクノロジーを掛け合わせた造語)会社になると宣言しました。これまでも、事故が少なければ保険料が安くなるといった保険は存在してきましたが、イーデザイン損保は今後、事故そのものを少なくすることにフォーカスした商品とサービスを提供しようとしています。