かねてより銀行業務のIT化に乗り出し、いち早くオープン勘定系のシステムを導入した静岡銀行。人事面では20年以上前に目標管理制度や職務等級制度をスタートし、現在は副業やダイバーシティー(多様性)採用にも積極的だ。静銀ではなぜ、人が育ち改革が進むのか。また、持ち株会社への移行で、今後の経営戦略はどう変わるのか。静銀の取締役会長で、持ち株会社のしずおかフィナンシャルグループの代表取締役会長でもある中西勝則氏にWiL代表伊佐山元が聞く。
(構成:佐藤友美)

静岡銀行の本社へ来て驚いたのは、ITシステムがフル活用されていることでした。
頭取に就任した2005年にスタートした第9次中期経営計画(05~07年度)から変化に即応できるIT基盤の構築に着手しました。その後も、さまざまな業務改革に継続的に取り組む中で、第10次中期経営計画(08~10年度)では、「営業店における事務量6割削減」を目標に掲げました。すべての事務作業を洗い出し、業務遂行上必要がないものを廃止。またIT投資により効率化が図れるものはシステム化したり、アウトソーシングを活用したりすることで、営業店における事務の業務量を57%削減することができました。
この時点で、私の頭の中では、次の中期経営計画で住宅ローン業務の効率化に着手したいという考えがあり、住宅ローン業務の処理時間を63%削減するなど、IT投資には積極的に取り組んできました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)も進んでいますよね。金融庁が金融機関の基幹系システムに関する先進的な取り組みを支援する「基幹系システム・フロントランナー・サポートハブ」で、静岡銀行の次世代勘定系システムの構築が第1号案件にもなりました。
21年1月に、勘定系システムをメインフレームからオープン勘定系に変更しました。これにより、システムの運用・保守面におけるブラックボックス化の解消に加え、シンプルなシステム構造が実現し、稼働前に比べてプログラム開発の生産性は、約35%の向上が認められるようになりました。
一貫してドラスチックな改革を続けてきています。よく、銀行は横並び体質だといわれますが、静岡銀行が新しい改革を進められるのはなぜでしょう?
経営陣にコンセンサス(合意)があるからだと思います。例えば、OHR(=オーバー・ヘッド・レシオ、業務粗利益に対する営業経費の比率)という指標があります。我々は、この適正水準を55%以上(連結ベース)と考えており、55%の水準まで下がった場合には、新たな投資を始めようという共通認識があります。ここ数年は、戦略的な投資を続けてきたこともあり、OHRは55%を超えていました(20年度は59.5%、21年度は64.2%)。
現在も、OHRの推移を見極めながら、先の投資を考えているところです。
このように積極的に改革に取り組んできたのは、銀行経営を勉強すればするほど、このままだと銀行業が先細ることは間違いないという危機感を覚えたからです。米シリコンバレーでさまざまな話を聞いたり、欧州最大のオープン・イノベーション・イベント「Viva Technology」に行ったりすると、銀行界の狭い領域で考えていたら置いていかれるだけだとひしひし感じます。
もしかしたら、自分の任期中は大丈夫かもしれませんが、私たちは、10年、20年、30年後にどうすればいいかというKPI(重要業績評価指標)を持たなければいけません。「30年後にも、このメインフレームを使えるのか?」と考えれば、誰しも「いや、それは無理だろう」と分かるわけですよね。だからこそ、今後はベンチャー企業とも積極的に協業していかなくてはならないでしょうし、そうした基礎を少しずつでもつくっていきたいと考えています。
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