今年6月から日本経済団体連合会(経団連)の副会長に就任しました。副会長は19人もいるので、大それたこととは想像していなかったのですが、「初めての女性副会長」と大きく取り上げられ、驚きました。女性というラベルが貼られて、もう南場智子というよりも「女性」になってしまったようです。

これまでも経団連からお誘いはありましたが、何だかエスタブリッシュメントになってしまうような印象で気乗りがしなかったのと、ディー・エヌ・エー(DeNA)の仕事で手いっぱいでしたのでお引き受けしませんでした。代表取締役会長でありつつ、執行役員として事業運営を担う立場でもありましたので。しかし今年の4月にDeNAの社長が10年ぶりに交代し、私は執行役員から外れて会長職に専念することになり、状況が変化している中で経団連前会長の中西(宏明・日立製作所前会長)さんから再度お声がけをいただきました。
実はもう一つ、以前から経団連への参加をお断りしていた理由があります。就活の解禁ルールです。日本の新卒一括採用制度は大いに疑問で、諸悪の根源とさえ思っており、経団連のルールは、一括採用制度の問題を助長するものとして大反対でした。ただ、その就活ルールを中西さんはご自身が会長に就任された直後に取りやめました。各方面のハレーションが大きい決断をあっさりなさった中西経団連に変化を感じていたことが、今回お引き受けした背景にあります。
その中西さんとは、「副会長を頼む」というお電話を病床からいただいた時が最後の会話になってしまいました。とても残念で、寂しく感じます。
大事なのはラベルではなく、何をするか
「女性枠」というのは事実だと思います。他の副会長の皆さんとの顔合わせでも、「女性枠でお邪魔します!」とご挨拶しています。名刺にそう印字しておいた方がよいですね。今までジェンダー議論はなるべく避けて来たので少し複雑な気持ちですが、ここでしっかり仕事をして後輩女性の道を塞いでしまわないようにしなくては、という責任は認識しています。
ただ、私の立ち位置のユニークさはほかにもあると思います。会長や副会長企業の中でDeNAは唯一の新興IT企業であり、また私は会長、副会長19人の中で唯一の創業者、起業家です。そういった立場から新しい視点を持ち込ませていただくこともできるのではないかと考えています。当たり前ですが、そもそも人は、どういったラベルを貼られるかよりも何をするかが全てです。せっかくいただいた機会ですので、一つでも二つでも、世の中を良い方向に変える貢献をしたいと思っています。また引き受けたからには、そのプロセスも含め「面白がりたい」「面白い仕事にしたい」、これはDeNAでも大事にしている姿勢ですが、そんなふうに考えています。
ここ数年、内閣府の「成長戦略会議」にも参加し、日本の様々な課題について考え、議論する機会をいただいています。そうした中で、私自身のバックグラウンドから、とりわけ強く問題意識を持ち、変えていきたいと考えていることが二つあります。一つはスタートアップ(起業)のエコシステム(生態系)の強化、もう一つは大企業人材の徹底的な流動化です。
よく失われた30年といわれますが、1989年には世界の企業価値トップ50のランキングに日本企業は32社も入っていました。今は1社です。100位までを捉えても1社です。日本企業の生産性の低さもよく語られており、G7(主要7カ国)の労働生産性比較では最下位が指定席になっています。
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