取材を終えて

 

 横田さんのポストへの応募は「将来を明確に描いての挑戦」と思って取材に臨んだ。だが、彼女は「長期的なキャリアプランは具体的には考えていない。今目の前のやりたいことをやっていく」と語った。何が起こるか分からない時代で、キャリアを具体的に描きにくいからだ。

 意欲的な若手人材をつかむのは、「長く育てる」よりも「短く試させる」土壌づくりだ。

 富士通は20年10月から、全社でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、企業風土を変革するプロジェクト「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を進めている。ポスティング制度など人材登用の仕組みを改革することは、競争力を高め、DXの推進にもつながる。若手を重要なポストに登用しやすい仕組みをつくる。

 先行きが不確定な時代だからこそ、個人のキャリアも組織の計画も、長期的に描くことは簡単ではない。そのため、「今」組織に必要なポストを設け、「今」相応する個人が応募できる仕組みは、実は若い人材をひきつける。

 横田さんが所属する富士通デザインセンターのセンター長・宇田哲也氏は「若い世代は、(成長スパンとして、10年、20年ではなく)1年とか3年先しか見ていない。Z世代とうまく付き合って、その能力を最大限活用するには、『できない点がたくさんあってもいい。1点とがった部分を生かして』という姿勢が大事」と話す。

 かつての日本企業が考える持続可能な組織づくりは「何十年にわたって手塩にかけて育てる」のが一般的だったかもしれない。だが、人材の流動化が進む今、その社員は転職する可能性がある。

 そうであれば、長期的に各社員の欠点を埋めて平均化するよりも、年次にかかわらず個人が持つ能力に着目して、組織全体で補い合う方が効率的だ。個々の社員が自分の意思で手を挙げられるポスティング制度は、新たな時代における持続可能な組織づくりと言えそうだ。

 ポスティング制度がプラスに働くのは、何も若い世代に限らない。長く経験を積んできた社員にとっても、自分の力を発揮できる場所を模索できる制度になっている。

 入社2年目の“課長級”社員に注目が集まりがちだが、実は57歳であるポストに手を挙げ、挑戦する社員も誕生している。ポジションに年齢制限の意識を無くし、自分の力を発揮できる場所を探して手を挙げる環境を整える。若手だけでなく、シニア社員のモチベーション向上にもつながりつつある。

 組織にとっても社員にとっても、「今」に焦点を当てて組織を設計する。「長く育てる」よりも「短く試させる」土壌が、挑戦を重ねられる循環的な組織をつくることにつながるのかもしれない。

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