個人:生計維持から自己成長の手段へ
働き手にとっても、副業の持つメリットは大きい。
副業がもともと持つ意味合いは、収入源を補う手段、いわゆるダブルワークの色彩が濃いものだった。それは今でも変わらない。リクルートワークス研究所が約5万人の労働者を対象に毎年実施している「全国就労実態パネル調査」を見ると、21年、副業の目的として最も多いのは「生計を維持するため」(49.4%)だった。
しかし現在、主に大企業で働く従業員が注目する副業は、経済的なメリットを主眼に置いたものではない。「新しい知識や経験を得られる」「異なる分野の人とつながり、幅広い人脈が得られる」「自分の能力やスキルを社外で試す機会が増える」といった効果が得られる点が注目されているのだ。いずれも1社だけで働いていては、実現しにくいものだ。
終身雇用や年功序列といった、日本固有の雇用慣行が崩れた今、会社に依存せず、自分でキャリアのオーナーシップを持ちたいと考える人は増えている。そんな状況の中、既存の職場を離れることなく新しい挑戦に臨める副業は、労働者にとっても大きな意義があるといえるだろう。
働き手の意識の変化はデータからも見て取れる。リクルート「兼業・副業に関する動向調査データ集2021」では、副業・兼業希望者を対象に「兼業・副業に期待すること」を質問。その回答を、20年と21年で比較した。「本業から収入に追加して副収入を得たい」という、生計維持を目的としたものは49.5%から38.7%と大きく減った。
反対に「新しい視点、柔軟な発想ができるようになりたい」「時間を意識しながらより効率よく仕事を進められるようになりたい」「本業以外で仕事のやりがいを感じたい」といった項目において、「はい」と答える回答割合が21年は増えている。
これは先に触れた企業側の理由と同じで、コロナ禍の影響が大きいと考えられる。リモートワークの普及で効率的に働くIT(情報技術)環境が整備された。
将来の先行き不透明感の高まりも関係する。「本業がこの先もずっと続けられる確信が持てないため、失業しても困らないように手に職をつけたい、キャリアの幅を広げたい、と考える人が増えていることもあると考えられる」と、副業の研究に長年取り組んでいる東洋大学経済学部の川上淳之教授は話す。
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