(写真:PIXTA)
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 「この会社にいること自体がリスクなのではないかと、辞めるまでの2年間は悶々(もんもん)としていました」。大手コンサル会社でスタートアップ支援に携わる京子さん(27歳)は、さばさばした表情でこう語る。

 彼女は昨年まで誰もが名前を知る大企業で働いていた。16年に都内の有名私立大学の法学部を卒業。「日本の強みであるものづくりの過程に関わる仕事がしたい」と、製造業に的を絞って就職活動をしたところ、最初に内定をもらったのが大手化学メーカーの総合職だった。「うれしかったですね。どんな仕事でもやろうと思いました」。配属は東京本社の人事部だった。ベテランの先輩たちに付いて、新卒採用や中途入社向けの人たちの研修の企画・実施に携わった。そのほかにも、社員の労務管理作業などを担当した。最初は仕事を一通り覚えることに必死で、毎日はそれなりに充実していた。

 ところが、そんな京子さんのモチベーションをくじく出来事が入社2年目に起こる。翌年の新卒採用生の研修プログラムを作る会議でのことだ。「自分も入社時、基本的に同じ研修を受けたのですがちょっと分かりづらい部分があったのです。『もっとこうしたらいいのではないか』と意見したら『良い考えだけど、それを変えようとしたら、ちょっと3カ月じゃ作業が間に合わないな』と言われて。個人的には、皆の満足度が高まるのであれば人手を増やしたり、残業したりしてでも改善すべきだと思ったのですが」

 ちょうど同じ頃、会社は働き方改革で新ルールを導入したばかりだった。「安全で明るい職場」をスローガンに、サービス残業の禁止、休日の作業を前提とした資料の作成、休日メールの禁止などが指示された。「残業は1分単位で管理されます。とにかく厳しくて、働き方改革を進めようという上からの意思をひしひしと感じました」。部下の有給取得率が組織長の人事評価に反映されるということにも驚いた。

 働き方改革のせいで京子さんが思い入れを持って取り組もうとしていた研修プログラムの作成も限られた時間の中でやらなければならなくなり、前年踏襲が基本になっていった。

 18時には仕事を終わらせ、退社しなければならない。スポーツや趣味に打ち込む同僚たちは、喜々として仕事を切り上げて帰っていく。「プライベートを充実させるにはとても良い会社です。ですが私はどちらかというと仕事の幅を増やして充実した毎日を送りたかった。だんだん同じことの繰り返しに、仕事の面白みを失っていきました。ゼロから1を生み出すことがまったくないのですから」

 京子さんは入社3年目に関西地方の工場勤務を命じられる。故郷に近い場所への転勤は希望していたので嬉しかったが、社員の能力開発に配慮がない姿勢に疑問を感じた。そこでも配属先は人事部だったからだ。主な仕事は1000人以上いる工場の従業員や研究者の労務管理業務だった。「国内数カ所にある工場などの拠点を転々としながら人事業務を一通りマスターし、東京に戻って人事部の管理職に就く。これが人事部のキャリアパスです。人事部に配属されたら一生人事部。年齢や勤続年数に応じて責任は重くなりますが、基本やっていることは同じです。先輩たちの姿が数年後の自分なのです。もう先が見えてしまいました」

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