少子化対策は企業にとって無縁の課題でも、触れてはならないタブーでもない。女性でも男性でも子どもを持ちやすい職場作りは、企業の成長に直結する。どうすれば働き手も企業も恩恵を受けるのか。先進企業の取り組みに迫る。

■連載ラインアップ
少子化は企業が止める 出生数が激減、国任せではいられない
伊藤忠、働き方改革で出生率2倍 生産性向上と子育ての意外な関係
「伊藤忠ショック」に意義 少子化を止めるカギは企業にある
・キリンは模擬体験、大成建設は夫にも研修… 育児支援に当事者目線(今回)
第5子出産に祝い金500万円 産み育てやすい職場が人材呼び込む
出生率上げたフランス、スウェーデンに学ぶ 日本はまだやれる
パパ育休は男女役割意識を破るか 「日本は子育てしやすい」4割のみ
出生率2.95が示す「奇跡の町」の教え 「社会の宝」はこう増やす

 オフィスに突然、保育園から電話がかかってくる。「お子さんが発熱しました。今すぐ迎えに来てください」。連絡を受けた社員は大急ぎでチーム内で引継ぎを行い、業務を終えて帰宅する。

 実はこの社員は独身で、子育て中でもない。キリンホールディングスが実施している子育ての模擬体験型研修に参加しているのだ。「なりキリンママ・パパ」という名称のため、社内ではこの研修への参加を「なりキリン」、対して実際に育児中であることを「本キリン」と、同社の人気商品「本麒麟」にちなんで呼ぶこともある。

「なりキリン」に参加しているキリンホールディングスの女性社員。子どもの急病の知らせが入ると、仕事を打ち切らないといけない
「なりキリン」に参加しているキリンホールディングスの女性社員。子どもの急病の知らせが入ると、仕事を打ち切らないといけない

 働き方への意識が高まり、育児や介護中の社員に配慮する機運は高まっている。ただ一方で、時短勤務や育休を取得していない社員に業務のしわ寄せが及んでいるという不満の声がくすぶりがちなのも事実だ。

 これは育児と仕事を両立する社員にとっては無言の圧力になる。たとえ会社が制度を整えていたとしても、周囲の目が気になって利用しにくくなってしまうばかりか、自分が置かれている状況を共有したり、協力を求めたりすることも難しくなる。

 こうなると育児中の社員に過剰な業務負担がかかりかねない。ワークライフバランスは崩れ、優秀な人材が離職を余儀なくされる恐れもある。

 こうした事態を防ごうとキリンが2019年からグループ全体で導入したのが「なりキリンママ・パパ」だ。仕事と育児の両立を体験してもらい、理解と共感を深めてもらう。

仕事は打ち切り、在宅業務も禁止

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3913文字 / 全文4919文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「仕事とわたし 新しい働き方のカタチ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。