日本企業の課題の縮図

 NTTコミュニケーションズの問題は、日本企業の課題の縮図でもある。1971~74年生まれの「団塊ジュニア世代」が50歳前後に差し掛かり、多くの企業で50代社員が増える。終身雇用や年功賃金など日本型雇用制度が幅を利かせてきた時代に社会人となった彼らは、生活設計やキャリア形成の多くを会社に頼ってきた。

 日本経済が右肩上がりだった頃はそれでもよかった。高給をもらいながらのんびり働き、60歳の定年を待つ。年功賃金制度の下、若い頃がむしゃらに働いても賃金が抑えられていた分、ベテランになったら取り戻せる──。そんなイメージがかつての50代にはあったはずだ。

 しかしバブル崩壊を機に年功賃金の見直しや成果主義の導入が進み、今そしてこれからの50代を待つのは先輩世代とは異なる未来だ。政府の調査によると、95年の50~54歳の働き手は当時20~24歳だった若手の1.94倍の賃金を受け取っていた。だが2020年の50~54歳は昇給が抑えられてきた結果、若手の1.73倍にとどまった。

 勤続35年でもらえる退職金の平均額は、10年前と比べて500万円も減少。追い打ちをかけるのが、一定の年齢に達すると一部の昇進する社員を除き役職から降ろす役職定年制度だ。多くの企業は50~55歳で線引きしている。

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 もとは組織の新陳代謝を促すための制度だが、中高年に仕事への意欲を失わせる大きな要因となっている。定年後研究所(東京・港)とニッセイ基礎研究所が18年に出した試算では、役職定年で50代社員が意欲と生産性を下げることで生じる経済的な損失は約1兆5000億円に達する。

企業も働き手も考える時

 賃金や退職金の減少は、50代以降の仕事に対するモチベーションを下げるのみならず、定年後の生活にも大きな影を落とす。「今の50代は昔の50代よりも貧しくなっている」。こう話すのは、これまで様々な企業の人事制度構築に携わったフォーラムエンジニアリングの秋山輝之常務だ。

 前出のデータが示す通り、2000年代のバブル崩壊後に多くの企業が年功賃金制度や退職金の見直しを実施したことで、企業の人件費は低下した。従って、現在の50代は00年代の50代社員ほど露骨なリストラや早期退職を迫られてはいない。とりあえず、働き口はあるという状態だ。

 だが安心してはいられない。理由は、ライフスタイルの変化だ。女性の平均初婚年齢は1990年で25.9歳だったが、現在の50代前後の世代が20代後半~30代初めだった2000年には、27.0歳と10年間で上昇している。男性も同28.4歳から28.8歳と同様の傾向だ。それに伴い、出産や住宅の取得年齢も後ろ倒しになっている。

 50代以降も子どもの教育費や住宅ローンの返済にそれなりの資金を割かなければならない人が増えている。秋山氏は「賃金や退職金が昔と比べて減っている上に、ライフイベントの後ろ倒しで老後資金をためる時間が少なくなっている。50代以降も長く働き、ある程度のお金を得られるようなキャリアプランを再構築していく必要がある」と話す。

 21年に改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業には従業員に70歳まで就業機会を確保する努力義務が課された。働き手にとってはありがたい話だ。だが、多くの企業の場合、定年延長後の賃金は現役時代と比べて大きく下がる。やりがいのある仕事に就けるとも限らない。モチベーションを維持できないのであれば、早い段階で自分で人生後半戦のキャリアを切り開くのも手だろう。

 一方の企業も、50代社員の意欲をそいだままくすぶらせておくわけにはいかない。「生涯現役社会」の本格到来を前に、働き手も企業も、真剣に考えなければならない時に来ている。