バブル崩壊に端を発する平成不況が生んだ氷河期世代。4年制大学卒業の場合、この春で全員が40歳以上になり、社会や組織の中核を担う年代になった。

 社会に出る第一歩でつまずいたことで、長らく不遇をかこってきたが、昭和の成長と平成の成熟の両方を知るこの世代には、秩序とダイバーシティーを両立して組織を変革する潜在力がある。起業家を多く輩出し、イノベーションの先頭にも立ってきた。

 経済情勢や政策に振り回され続けてきたのは事実だが、「可哀想な世代」の一言では片付けられない。多面的な考察を通じて、これまでにない氷河期世代の実像を浮かび上がらせるのが新連載の主眼だ。

 1回目は兵庫県宝塚市の採用エピソードを通して、今なお続く、この世代を取り巻く厳しい現実を取り上げる。

■連載予定 ※内容は変更する場合があります
(1)氷河期採用枠、倍率600倍 宝塚市に見る不遇世代の今
(2)氷河期世代、ゆがんだ組織の犠牲者 だが争奪戦の対象にも
(3)氷河期世代に組織変革の力あり 規律と多様性のハイブリッド人材 
(4)ナナロク世代の起業家、氷河期人材にエール「人生これから本番」
(5)自己責任も甘えもウソ 氷河期、大卒就職率低下の真実
(6)氷河期世代が映し出す スタートでつまずかない社会の重要性

兵庫県宝塚市は2019年、当時の中川智子市長の発案で、全国に先駆けて氷河期採用を始めた(写真:PIXTA)
兵庫県宝塚市は2019年、当時の中川智子市長の発案で、全国に先駆けて氷河期採用を始めた(写真:PIXTA)

 倍率600倍という数字ほど、この世代が置かれた厳しい境遇を物語るものはないだろう。兵庫県宝塚市が2019年に全国に先駆けて、氷河期世代を対象にした職員採用試験を実施したところ、3人程度の採用予定枠に、北海道から沖縄まで1800人以上から応募が殺到した。

 氷河期世代とは、バブル崩壊後の景気低迷期に企業が新卒採用を抑制した1993~2004年ごろ、社会に出た世代を指す。00年には、就職を希望しながら決まらないまま卒業した「未就職卒業者」が12万人に上った。非正規でキャリアをスタートせざるを得なかった人も多いが、08年のリーマン・ショック時には雇い止めも相次いだ。

 十分な職歴を積めないまま年齢を重ね、10年代に経済が上向き始めた頃には、正社員への転職は困難になっていた。大半が不況だった平成という時代に翻弄され続けた。

200社近く受けたものの……

 住まい政策課で働く長沼李果さん(38)は、22年4月に氷河期枠で宝塚市に入庁した。19年の採用試験にも申し込んでいたもののかなわず、21年実施の試験で合格を手にした。最初より落ち着いたとはいえ、倍率は90倍近くの狭き門だった。

 04年に短大を卒業した長沼さん。インテリアを専攻していたことから、建築関係を志望して就職活動をしたが、50社以上受けても内定は得られなかった。

 短大卒業後から1年以上も就職活動は続いた。計200社近くを受けて、ようやく家具や雑貨を店頭で販売する契約社員の仕事に就けた。

 ただし、働く環境は決して恵まれたものではなかった。勤務時間は不規則で、残業も月に100時間を超えた。採用時にあった正社員登用のルートがあるという話もしばらくしてほごにされてしまった。

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