これまで企業はポストありきの配置転換やジョブローテーションの名のもと、社員を国内外に送り出してきた。だが、個人のキャリアに対する価値観が変わり、リモートワークも進展。転居を伴う異動は時代にそぐわなくなっている。他方、転勤による人材育成を自社の成長につなげる企業もなお多い。
日経ビジネスでは、各社の取り組みを取材、人事部やビジネスパーソンにアンケートを実施し、これからの転勤のあり方について考察していく。
今回は、「転勤」という枠組みにとらわれず、「職住近接によるワークインライフの推進」を掲げたNTTグループの事例から、家族の転勤に同行しながら従来の業務を継続している社員の働き方に焦点を当てる。
■掲載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)1000人調査 社員は「転勤命令」をどう受け止める 懸念は家族
(2)70社の人事に聞く「わが社が転勤制度を見直す理由」
(3)世界32万人のグループ社員の転勤をなくしたい 巨大艦隊NTTの挑戦(今回)
(4)転勤が宿命の製造業、クボタが紙の辞令を廃止した理由
(5)働く場所は私が決める 富士通、明治安田が選んだ卒転勤
(6)家賃補助9割、手当240万円…「転勤当たり前」保険会社の試行錯誤
(7)養老孟司氏 「転勤拒否は自分の未来を狭める行為」
(8)大手前大・平野学長「転勤は日本のすり合わせ文化の象徴だ」
(9)「ほとんどの転勤はなくせる トップダウンが重要」大久保幸夫氏
(10)転勤は中小にも余波、「配偶者の異動で辞職」を防げ 楓工務店
(11)人事部はつらいよ…「よかれと思う転勤が通用しない」
(12)転勤族もつらいよ…経験者たちの哀歓「転勤伝説」
(13)転勤免除期間、ジョブ型、キャリア自律…望まない転勤なくす処方箋
NTTコミュニケーションズでサービス企画の開発業務に携わる濵村有里さん(36歳)は2021年の春先、これからも仕事を続けるかで悩んでいた。
夫の関西転勤が決まったからだ。濵村さんの業務は東京本社の部署に帰属しており、地方転勤となると本来なら職種を変える必要があった。ただ、当時は仕事が変わってまだ半年近く。ようやく仕事を覚えてこれからというタイミングでもあった。なるべくキャリアは変えたくない。脳裏には退職して現地で希望職種を探すこともよぎった。

夫の勤め先に転勤があることは知っていたし、キャリア形成を応援したい気持ちもある。「小学生と保育園の子ども2人が父親になついていて。夫だけ単身赴任し、私が東京でたった一人で育てながら働くという選択肢はありませんでした」と濵村さんは振り返る。
NTTコミュニケーションズは大阪にも拠点を持つ。無理を言えば、大阪拠点の部署に異動して働く選択肢もある。ただ、希望する職種に欠員があるのかも分からないし、自分の都合のために部署をまたいで人員の調整をしてもらうのも申し訳ない。せっかく築いてきたキャリアも途切れてしまううえ、夫がまた転勤となれば、そのときまた社内で調整をしてもらわなければならなくなる。
濵村さんは退職も視野に入れつつ上司に相談したところ、「遠隔地勤務」のトライアル制度を紹介された。
これは、NTTコミュニケーションズが21年から試験導入した制度で、リモートワークの環境が整えばどこからでも働いていいというものだ。実際、濵村さんは新型コロナウイルス禍となって以降、仕事のほとんどをリモートで行ってきた。であれば、関西に住みながら、所属は変わらないままに働き続けられるのではないかと考え、トライした。
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