今年の春闘は大企業を中心に「満額回答」が相次ぎ、長く低迷していた日本の賃金に上昇の兆しが見えてきた。転機が訪れているのは正社員の賃金ばかりではない。小売りやサービスなど、女性を中心としたパートを多く抱える業界は春闘に先駆ける形で時給引き上げに踏み切ってきた。食品スーパー大手のライフコーポレーションもその一社。「このまま手をこまぬいていては、業界が衰退してしまう」。同社の岩崎高治社長は危機感をあらわにする。

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小売りやサービス業を中心に、パート時給を引き上げる動きが相次ぎました。ライフコーポレーションも2022年度上半期(3~8月)に時給を平均でおよそ44円(約4%)引き上げています。

岩崎高治ライフコーポレーション社長(以下、岩崎氏):パートナー(パート)にお支払いする時給は10年前と比較すると2割ほど上がっています。今回の44円という時給の引き上げ幅は過去に比べれば大きいのは事実ですが、もともと00年代から当社は人への投資を重視していたのです。

ライフコーポレーションの岩崎高治社長。1966年生まれ。89年、慶応義塾大学を卒業後、三菱商事に入社。99年、ライフコーポレーションに取締役として入社。首都圏事業本部長などを経て2006年より現職。(写真:的野 弘路)
ライフコーポレーションの岩崎高治社長。1966年生まれ。89年、慶応義塾大学を卒業後、三菱商事に入社。99年、ライフコーポレーションに取締役として入社。首都圏事業本部長などを経て2006年より現職。(写真:的野 弘路)

 18年に発表した中期経営計画では、現場でお客様に直接対応するパートナー(パート)の待遇改善を明確に打ち出しています。当時、私は会社が停滞しているのではないかと懸念しました。本社の権限が強くなる一方でお店に元気がなくなっていた。頭でっかちになってしまっているなと感じたのです。本社が限られた情報でもって現場に指示を出していたのでは変化に取り残され、成長はいずれ頭打ちになります。現場を中心に会社をつくり変えなければならない、本社はサポート役に徹して権限を現場に渡していかなければならないと考えたわけです。

近年はパートの待遇を改善しなければ人手を確保できないという危機感を持って時給引き上げに取り組む企業も少なくありません。

岩崎氏:もちろん、人手不足への対応という観点でも時給引き上げは重要です。実際に人手不足は深刻化しています。待遇改善を打ち出した18年当時も人材の確保には苦労していましたが、足元の状況はもっと厳しい。今までに感じたことのない深刻さです。

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