今こそ考えたい日本の「転勤制度」。解剖学者の養老孟司氏はかつて、転勤を「現代の参勤交代」と例えた。一定期間、地元を離れて中央都市へ出向いて働き、再び戻るの繰り返し。江戸時代と現代では「お上」の役は変わり、目的も異なるものの、都市と地方を知る、あるいは自分の知らない土地に住む経験の重要性を説く。そんな養老氏は、現代社会に吹き荒れる転勤への逆風をどう見ているのだろうか。

(取材・構成=白壁 達久)

■掲載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)1000人調査 社員は「転勤命令」をどう受け止める 懸念は家族
(2)70社の人事に聞く「わが社が転勤制度を見直す理由」
(3)世界32万人のグループ社員の転勤をなくしたい 巨大艦隊NTTの挑戦
(4)転勤が宿命の製造業、クボタが紙の辞令を廃止した理由
(5)働く場所は私が決める 富士通、明治安田が選んだ卒転勤
(6)家賃補助9割、手当240万円…「転勤当たり前」保険会社の試行錯誤
(7)養老孟司氏 「転勤拒否は自分の未来を狭める行為」(今回)
(8)大手前大・平野学長「転勤は日本のすり合わせ文化の象徴だ」
(9)「ほとんどの転勤はなくせる トップダウンが重要」大久保幸夫氏
(10)転勤は中小にも余波、「配偶者の異動で辞職」を防げ 楓工務店
(11)人事部はつらいよ…「よかれと思う転勤が通用しない」
(12)転勤族もつらいよ…経験者たちの哀歓「転勤伝説」
(13)転勤免除期間、ジョブ型、キャリア自律…望まない転勤なくす処方箋

養老孟司(ようろう・たけし)氏
養老孟司(ようろう・たけし)氏
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒業後、解剖学教室に入る。81年、東京大学医学部教授に就任し、95年退官。『からだの見方』(筑摩書房、サントリー学芸賞受賞)、『唯脳論』(ちくま学芸文庫)、『バカの壁』(新潮新書)など著書多数。大の虫好き。(写真=北山 宏一)

 転勤の辞令をどう捉えるか。人によって、あるいは時期によってそれぞれ受け止め方は違うでしょう。迷惑と思うか、チャンスと思うか。今は転勤を好まない人が多いようですね。ただ、ものは考えようです。

 現状を変えたくない。これは多くの人が感じる自然の摂理です。だって、楽ですから。変えないのが一番楽なんです。でも、人って本当に変わらないものでしょうか。

 人の細胞だって数年ですべてが入れ替わります。食べ物の好みも年を取れば変わっていく。変わっていない、あるいはこれからも変わらないというのは幻想でしかありません。

 変わっていくのが人生なんです。変わるのが嫌だというのは、実は未来の可能性を狭めているのです。定年後の生き方などを考えれば、自ら狭くしない方がいいと思いますよ。

 会社などの組織の方針で人生を決められるのは嫌だとか、今住んでいる所以外には住みたくないと思うかもしれません。

 でも、考えてみてください。日本は災害大国です。先日も大きな地震がありました。東南海地震は確実視されています。災害は予想できないタイミングで襲いかかり、我々は残酷な仕打ちを受ける。私たちはそんな環境に住んでいるのです。住む所を含めた「変わらないこと」への固執は、急激な変化に対する打たれ弱さにつながるのではないでしょうか。

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