男女間格差を示す「ジェンダー・ギャップ指数」が主要先進国で最低水準の日本。昭和女子大学の八代尚宏特命教授は「企業も国も、経済環境に合わない専業主婦優遇を続けた結果、女性の働くモチベーションを奪った」と断じる。企業は配偶者手当を廃止して子ども手当にシフトし、国は専業主婦の分も保険料を徴収するように改めた上で、幼児教育の場として保育所をもっと活用することが少子化対策になると説く。
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日本は世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ指数」が主要先進国で最低水準です。
八代尚宏・昭和女子大学特命教授(以下、八代氏):とにかくジェンダー・ギャップ指数がひどい状況です。2022年は全体で116位と主要先進国で最低水準です。中身を見れば、教育や健康の分野ではトップクラスですが、問題は政治や経済参画です。業界を代表する団体や企業のトップに女性がいないのです。
主な原因は日本企業の在り方です。男女差別というより、過去の高い経済成長に合わせて企業内教育を極度に重視する傾向にあったために、結果的に辞める可能性の高い女性の採用を避けることにつながりました。ですが、今は雇用の流動化が男女の平等化とともに企業の利益となる時代となりました。
過去の高度成長で合理的だった企業内訓練を重視する傾向は、変えていかなければなりません。これは女性のために変えるのではなく、もともと経済環境に合わなくなっているのに使い続けてきた制度を見直すのです。

経営者の考え方も変革を迫られそうです。
八代氏:最近、「(辞められると困るので)若い女性は正社員として雇用してません」といった女性経営者のツイートが波紋を広げました。あのような中小企業の悲鳴をどう捉えるかですが、女性の選別は企業自身にも不利益になります。辞められたら別の人材を引っ張ってこられるように、仕事を共通化する努力も大事です。大企業の社員に副業として手掛けてもらうなど、外注を活用する手もあります。
配偶者手当を撤廃し、子ども手当に
まず企業はどのように制度を変えていくべきでしょうか。
八代氏:日本企業は家族手当を見直すべきです。専業主婦を優遇する配偶者手当を撤廃し、その原資を子ども手当にシフトすべきではないでしょうか。既にトヨタ自動車などが先駆けて実施していますが、配偶者手当は女性が働くとペナルティーとなるため、貴重な人材の浪費と言えます。女性の幹部比率だけでなく、配偶者手当の有無の公表は株主にとって、企業が重要な経営改革をしているかどうかのリトマス試験紙になるのではないでしょうか。
確かに減らした分の原資を明確にしないと、減らされる人は納得してくれません。
八代氏:その点は税制も同じです。最近、少子化対策として子どもの多い世帯の所得税負担を軽くする「N分N乗」が注目されていますが、あれは少子化対策とはとても言えないと思います。累進課税をフラットにするわけですから、高所得で専業主婦がいる片働き世帯に有利になるだけです。なぜ単純に、扶養する子どもに応じた控除だけを拡充しないのでしょうか。
N分N乗では子どもの数だけ世帯が得をしますが、全体ではすごく所得税の税収が減ります。その分をどう補うのかといった議論も出てきます。企業も政府もできるだけ、女性が働く、働かないにかかわらず中立的な仕組みに変えていくべきです。
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