パートの賃金を引き上げる動きが広がり、政府もパートに就業調整を強いてきた「年収の壁」の見直しに動き出した。「これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。パートの位置づけは変わりつつある」――。短時間で働く女性組合員を多く抱える日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長はこう指摘する。年収の壁については「制度を抜本的につくり変える時期が来ている」と話し、パートのリスキリングを通じた生産性向上の必要性も説く。

■主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資
年収の壁は撤廃を 連合会長が激白「このままでは企業がもたない」
・「今年の春闘を変革点に」 UAゼンセン会長が語る賃上げと年収の壁(今回)
・賃上げで大量離職にストップ 日生社長「長く安定して活躍を」
・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に
・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る
・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家
・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長
・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授

UAゼンセンは今回の春闘で6%程度の賃上げを掲げました。連合(5%程度)を上回る水準です。

松浦昭彦UAゼンセン会長(以下、松浦氏):UAゼンセンは飲食業や食品製造業、それに小売業など、賃金水準が相対的に低い業種の組合員を多く抱えています。加えて、中小規模の組合や、正社員以外の方々の割合も多い。組合員の約6割は女性で、同じく約6割が短時間で働く方です。物価の上昇が生活に与える影響は大きく、組合員の生活を守るためには高い水準の賃上げを実現しなければなりません。

 加えて、我々は今回の春闘を大きな変革点にしたいとも考えています。長年にわたって停滞してきた賃金を継続的に上げていく変わり目としたい。ですから、たとえ来年の物価上昇率が1%台に戻ったとしても、賃上げ水準をかつてのような低いレベルに戻すことは考えていません。

日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長。1984年、帝人に入社。帝人労組執行委員、ゼンセン同盟総合化学・繊維部会副書記長、UAゼンセン書記長などを経て2016年から現職。(写真:的野 弘路)
日本最大の産業別労組UAゼンセンの松浦昭彦会長。1984年、帝人に入社。帝人労組執行委員、ゼンセン同盟総合化学・繊維部会副書記長、UAゼンセン書記長などを経て2016年から現職。(写真:的野 弘路)

パートの時給を平均で7%引き上げると表明したイオンを筆頭に、非正規社員、特にパートの待遇の見直しに動く企業が相次いでいます。

松浦氏:これまでは主婦やシニアの方が次々とパートとして働きに出てきました。企業は募集すればいくらでも人を採用できたかもしれません。しかし状況は変わりました。働く意欲のある方はもう実際に働いています。これ以上はもう増えないでしょう。雇用調整の対象になりやすかったパートの位置づけは変わったのです。これからは働く側が企業を選ぶ時代になる。それを理解しているから企業側も「選ばれる存在」になるために動き出しているのではないかと思います。企業としては、とにかく長く働いてほしいという感覚を強めているのではないでしょうか。

 正社員とパートの違いも小さくなってきています。UAゼンセンの組合員でも、勤続10年以上とか、雇用期間に定めがない、つまり無期雇用に転換したパートの方々が多くおります。正社員とほぼ同じように働いている方がたくさんいらっしゃるのです。

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