岸田文雄首相が男女の賃金格差の元凶とされる「年収の壁」の見直しに言及した。この税と社会保険の大改革は、女性のキャリアアップ意識と賃上げ効果を同時に高める。連合の芳野友子会長は日経ビジネスの取材に応じ、「性別にこだわっていては、もう国も企業も成り立たない」と女性の収入増を後押しする考えを強調した。年収の壁の撤廃は、日本が男性中心の昭和型社会経済モデルから決別する象徴となる。
■主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
・イオン、パート7%賃上げの衝撃 人件費はコストでなく投資
・年収の壁は撤廃を 連合会長が激白「このままでは企業がもたない」(今回)
・賃上げで大量離職にストップ 日生社長「長く安定して活躍を」
・NTTとJTB、「リモート」で育児と両立 コロナ禍対応を奇貨に
・富士通と日立、「ジョブ型」で女性はキャリアを自ら選び取る
・スタートアップも男性優位社会 「出産の壁」を壊せ、女性起業家
・「売り場の魅力を高めるには賃上げが不可欠」ライフ岩崎社長
・「配偶者手当を廃止し、子ども手当に」昭和女子大・八代特命教授
「構造的な賃上げを実現する」――。
1月4日、岸田文雄首相が年初の記者会見でこう口火を切ると、経済界の賃上げムードは一層高まった。今年の春季労使交渉で連合は28年ぶりの高水準となる5%の賃上げを要求。経団連の十倉雅和会長も1月の連合との懇談会で「賃金引き上げのモメンタムの維持強化に向けた積極的な対応を(各企業に)呼びかけている」と応じた。
「政労使は見ている方向を1つにしている」。2月に日経ビジネスの取材に応じた連合の芳野友子会長は大幅な賃上げへの手応えを隠さなかった。流通や外食、繊維などの労働組合が加盟するUAゼンセンの松浦昭彦会長も、「歴史的に見てここまで(政労使の)足並みがそろったことはない」と驚く。

もっとも「構造的な賃上げ」、つまり今年限りの賃上げではなく、毎年継続して働き手の収入を増やしていくハードルは高い。そのためには企業が人への投資を促進し、国内消費を刺激して収益を拡大させ、賃金をさらに増やすという経済の好循環をつくり出す必要がある。
そこで改めて焦点になっているのが、男女の賃金格差の是正であり、働く女性の活躍を阻む制度の見直しだ。日本全体の賃金を底上げするのであれば、低水準に抑えられている女性の賃上げが効果的なのは明らかだ。「性別にこだわっていては、もう国も企業も成り立たない。労組としても女性の収入増を後押ししたい」と連合の芳野会長は強調する。
実質的に「働いたら罰」
岸田首相も、冒頭の記者会見で「女性の積極登用、男女間賃金格差の是正、非正規の正規化なども経済界とともに進める」とアピールした。併せて「女性の就労を阻害する、いわゆる103万円、130万円の壁などの是正にも取り組む」と言及。時の首相がいわゆる「年収の壁」を見直すと宣言したことは、女性の収入増に向けた大きな一歩と言える。
年収の壁とは、税金や社会保険料の支払い義務が生じる給与の水準を指す。この壁の存在は比較的短時間で働く女性の収入と働き方に大きな影響を与えてきた。
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