米ウーバー・テクノロジーズの参入を機に国内でも普及が始まったタクシー配車アプリ。都市部では少しずつ利用が広がっているものの、地方の零細・中小タクシーは依然として旧態依然のまま進化を止めている。

 こうした地方タクシーのトランスフォーメーションを黒子として支えているのが徳島市に本拠地を置くスタートアップ、「電脳交通」だ。率いるのは破綻寸前まで陥っていた家業のタクシー会社を継いだ近藤洋祐氏。電脳交通が生まれた背景に迫る。

電脳交通創業者の近藤洋祐氏の家業である吉野川タクシー
電脳交通創業者の近藤洋祐氏の家業である吉野川タクシー

 市場縮小や従業員の高齢化などの深刻な課題に直面するタクシー業界で、徳島を拠点とする異色のスタートアップ、電脳交通が注目を集めている。ITを活用し、タクシー会社の配車業務を支援するユニークなビジネスを展開している。

 電脳交通は創業から5年超で現在、北海道から沖縄まで36都道府県のタクシー会社に主力の配車システムを提供。株主には、タクシー大手の第一交通産業やエムケイ(京都市)のほか、JR東日本やJR西日本のベンチャーキャピタル(VC)、三菱商事、NTTドコモ・ベンチャーズといった多彩な面々が名を連ねる。

 創業者で社長CEO(最高経営責任者)の近藤洋祐は、破綻寸前だった家業の零細タクシー会社の運転手を振り出しに、経営者として会社の再建を果たした経歴を持つ。地方の中小タクシー会社の淘汰が相次ぐ中で、逆境を跳ね返すことができたのはなぜか。

家業である吉野川タクシーは廃業の危機を迎えていた(写真は旧本社)
家業である吉野川タクシーは廃業の危機を迎えていた(写真は旧本社)

 徳島の「母なる川」と言われる吉野川からほど近くの「吉野川タクシー」。2009年末、近藤の祖父が創業したそのタクシー会社は廃業の危機にあった。経営者の祖父を突然の脳梗塞が襲ったのだ。

 「会社を畳むしかない」。祖父を手伝っていた祖母や母親は諦めていた。だが、家族会議で反対の声を上げたのが当時24歳の近藤だ。「自分が手伝うから続けよう」。苦労する家族を助けたいとの一心だった。

イチローに憧れて単身渡米

 「家業を継ぐなんて想像したこともなかった」。家族経営のタクシー会社とはいえ、近藤にとってタクシーは無縁の存在だった。高校から始めた野球に夢中になり、当時メジャーリーグで大活躍していたイチローに憧れていた。イチローに近づくため、地元の高校を卒業した近藤は単身渡米して現地の学校に入学し、メジャーリーガーを目指した。

 だが、憧れの舞台への壁は厚かった。4年間挑戦したが、結局メジャーから声はかからなかったのだ。失意の中で帰郷した近藤を待ち受けていたのが、家業の危機だった。

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