前回の記事では、男女格差や今なお残るシングルマザーの貧困問題を見てきた。非正規雇用の割合、性別による役割分担が分かれていることに加え、伝統的な家庭への考え方に日本が固執し、女性の政治家・リーダー層が少ないことがジェンダーギャップ指数に関わっていると指摘した。

 次世代にこうしたジェンダー格差を残さないためのヒントはないのか。

 女性管理職は10%未満とはいえ、準リーダー層の半数以上は女性の東京海上ホールディングス。同社は今年4月から多様性担当の役員を設置するなど、性別を含め多様性を持った組織づくりに力を入れている。

 「不確実性のある問題に対処するには、ダイバーシティーが礎となる」。

 21年8月、東京海上ホールディングス(HD)の役員フロアで開かれた会議で、小宮暁社長はこう述べた。多様性をテーマに話し合うために開かれたもので、人事担当役員や米国オフィスの社員、子供を持つ女性社員、インド出身の社員がオンラインで加わるなど、10人ほどの参加者の性別や国籍のバックグラウンドはばらばらだ。

ダイバーシティーに関する議論が8月に行われた
ダイバーシティーに関する議論が8月に行われた

 会議では「単に女性の数を増やしても、文化が同じなら権力構造は変わらない。企業内の文化・権力構造をまとめて変えていくことが必須」(社外取締役)との声や、「女性はサポート的な役割といった固定概念が配属時に残っていて、変えていかなければならないのでは」(現場社員)といった意見が上がっていた。

 東京海上HDの社員の半数以上は女性、売上高の半分を海外事業が占める。経営陣には耳の痛い話もちらほらと聞こえてくるが、こうした会議を進めるのも多様性が経営戦略や企業の成長にとって欠かせないと考えるからだ。

 4月には多様性を推進するための専門の役員「グループダイバーシティ&インクルージョン総括(CDIO)」を設置し、国内外のグループ横断で多様性を話し合うCEO直轄の諮問組織「ダイバーシティーカウンシル」の導入を決めた。

 冒頭の会議も、カウンシルの一環だ。議論の仕切り役で、CDIOに就任した東京海上HDの鍋嶋美佳氏は「保険会社は人こそが財産。性別や年齢など関係なく活躍できる企業にすることが欠かせない。男女の役割をはじめとした固定概念をなくしていく」と話す。

 鍋嶋氏は91年に入社。同期450人のうち総合職の女性は1割にも満たなかった時代だ。その後育児休暇を取得したが、社内でもまだ珍しかった。それでも子育て、神戸支店や米国・ニューヨークへの駐在も経験した。重要な会議には夫と予定の調整をするなど、「二重、三重でバックアップのプランを用意していた」(鍋嶋氏)という。「一時はシッターさんに頼り、夫が仕事をやめるなどで対応したが、仕事を続ける、家族のあり方には男女関係なく関わることの重要性を感じていた」と話す。

鍋嶋氏は東京海上ホールディングスのCDIOに就任した
鍋嶋氏は東京海上ホールディングスのCDIOに就任した

 連載6回目では仕事上に残る男女差別、寿退社の強要の現場を見てきた。こうしたジェンダーによる格差を断ち切ることが欠かせない。