前回、「エバーノート創業者『もはやシリコンバレーにいる必然性はない』」では、フィル・リービン氏が米シリコンバレーからアーカンソー州に移住した理由を聞いた。コロナ禍を機に経営者や投資家、さらに企業の「大移動」が起こる中、それらが移った先では何が起きているのか。米テスラのCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク氏が移住を宣言したテキサス州の現場から見ていく。
米テキサス州のほぼ中央に位置する州都オースティン。夜には繁華街を貫く六番街通りのライブハウスからカントリーやロック音楽が鳴り響き、週末になると人々は公園や湖でトレッキングなどを楽しむ。
何の変哲もないこの南部の都市が今、「米国の未来を支えるネクスト・シリコンバレーになるかもしれない」と注目を集めている。
その渦中にいるのが米テスラのCEO(最高経営責任者)、イーロン・マスク氏だ。2020年12月にカリフォルニア州からテキサス州への移住を公表した。

オースティンで6年間、米ウーバーテクノロジーズの運転手として働く白人男性が記者に得意げに言った。「マスク氏の自宅はオースティン西部にある。一般的な住宅の10倍はある大豪邸さ」。ところが一転、顔を曇らせて続けた。「でも彼のせいでオースティンの住宅価格は急上昇。カリフォルニアやニューヨークから金持ちがたくさん移住してきているから。投資家も多いね」
住宅価格は43%上昇
オースティン・リアルター協会の調査によると、オースティン周辺の21年6月の平均住宅価格は前年同月比43%増の48万2364ドルで、過去最高を記録した。テスラだけでなく米オラクルが本社を同市に移転し、米グーグルも72万3000スクエアフィート(約6万7000㎡)のオフィスを追加するなどテック大手の進出も影響する。急激な発展ぶりに地元住民も困惑気味だ。
新型コロナウイルスの大流行に端を発した在宅勤務の普及により、米国で「民族大移動」が起きている。その目的地として大人気なのが、地方都市だ。米国勢調査が作成した10年から20年までの都市別人口成長ランキングを見ると、アリゾナ州フェニックスが1位、ヒューストンとダラス、サンアントニオのテキサス州3都市が2~4位を占めた。
経済も急速な成長を遂げる。20年10~12月期から21年1~3月期にかけての実質国内総生産(GDP)の年率成長率の変化では、東西の湾岸都市よりもコロラド州やアリゾナ州などの山岳部が急速に伸びている。
急成長の理由をコロナ禍による人の流入で片付けるのは早計だ。実は今、新産業を育むシリコンバレーのような「ゆりかご」が地方に続々誕生している。
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