富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」が若者の心をつかみ、全世界で売れ続けている。昔から変わらぬアナログフィルムが、若者にとっては新鮮に映る。発売から20年以上のロングセラー商品となった背景には、常に若者の思考を捉え、商品企画からプロモーションまで変化させ続ける取り組みがあった。

 今年6月、21年間経営トップを務めた古森重隆氏が退任した富士フイルムホールディングス。デジタル化による写真フィルム市場が消滅する危機に直面しながらも、古森氏の采配により、液晶パネル用のフィルムや化粧品などへの進出で成長を続けたことはよく知られている。すっかり業態が変わったように思われがちだが、実は今でもしぶとくフィルムカメラを売り続けている。

 国内では「チェキ」という愛称で知られる、インスタントカメラの「instax」だ。2004年には販売台数が10万台まで落ち込んだが、18年には全世界での販売台数は1000万台を突破した。しかも、デジタルネーティブとして知られるZ世代に売れている。単なるロングセラー商品ではなく、顧客の新陳代謝を繰り返しているところに真の強みがある。

1998年に発売された“初代チェキ”の「instax mini 10」。ここから様々な進化を遂げる
1998年に発売された“初代チェキ”の「instax mini 10」。ここから様々な進化を遂げる

 1998年に、プリクラブームに着目して開発されたチェキは女子高生を中心に大ヒット。02年には販売台数が100万台に達した。ところがデジタルカメラやカメラ付き携帯電話の普及で、撮影するとすぐに写真を見られる強みが急速に失われ、販売台数が減少していった。08年にはライバルである米ポラロイドコーポレーションが経営破綻して生産を停止。チェキも同じ道をたどるのではとささやかれていた。

 ところがここからチェキの復活劇が始まる。07年からアジア圏を中心に少しずつだが回復を見せ始めた。何が起きたのか調べてみたところ、韓国のテレビドラマの劇中にチェキが登場し、それがアジア圏で話題となって売れ始めていることが判明した。

 しかも「昔のユーザーが戻ってきたのではなく、若い層に売れていた」。チェキのマーケティングを担当しているコンシューマーイメージンググループの高井隆一郎・統括マネージャーは振り返る。不便なフィルムカメラをなぜデジタル世代の若者があえて手に取るのか。10年にチェキのマーケティングチームを復活させた同社は、若者への対面調査を繰り返してその理由を探り始めた。

高井隆一郎マネージャーはなぜ若者がチェキを手に取るのか理由を探った(写真:古立康三)
高井隆一郎マネージャーはなぜ若者がチェキを手に取るのか理由を探った(写真:古立康三)

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