例えば、価格を統一すれば、あるエリアでは高過ぎ、別のエリアでは安過ぎるといった状況が生まれかねない。そうなれば前者では販売不振、後者では儲けられたはずの利益を失う機会損失が発生する。そうした画一化のデメリットが時代の変化によってメリットを上回るようになったのなら、かつての常識であろうとメスを入れるのは当然ともいえる。

 「旧来のチェーン店的発想による大量出店ではなく、飲食店は地域の実情に合わせ『個店』のようにマネジメントすることが重要だ」。大阪王将などの飲食店や冷凍食品事業を手掛けるイートアンドホールディングス(HD)の文野直樹会長CEOはこう話す。

コロナ禍で一段と環境変化の激しい外食業界。チェーン店であっても「同質化」ではなく店舗ごとの「独自色」を打ち出す取り組みが注目され始めている
コロナ禍で一段と環境変化の激しい外食業界。チェーン店であっても「同質化」ではなく店舗ごとの「独自色」を打ち出す取り組みが注目され始めている

 同社のマイクロマネジメントの柱の一つは「地域特性に合わせた価格設定」だが、店舗によってはメニュー構成やレイアウトも大きく変わるという。

 前述の2つの店舗で説明すると、祖師谷大蔵店の看板メニューは「ウルトラ定食」。餃子とオムライスなどをワンプレートにした「オムライセブンセット」や玉子炒飯とホイコーローを合わせた「タロウセット」などが並ぶ。祖師谷大蔵が、ウルトラマンで知られる「円谷プロダクション」創業の地であることにちなんだ商品だ。対して三河島店の「名物メニュー」は焼肉定食となっている。

 また、中四国地域のある店舗では、ハーフサイズを前面に押し出したメニュー構成にしている。というのも、 地方のロードサイドではいまや、ファミリー層よりもシニア客が主要な顧客となる店舗が少なくない。通常サイズの料理を食べきれない顧客も多いため、小さいサイズを売り出したほうが喜ばれるエリアもあるのだ。

チェーン店でありながら個店らしさも

 もっとも、一連の戦略は度が過ぎると、大阪王将のブランドイメージが薄れるリスクもある。このため、2019年のマイクロマネジメント開始以降、竹本取締役執行役員や各地域の担当者は全国の約300店舗の加盟店オーナーらの元を行脚。中には、必要以上に「メニューにアレンジを加えたい」という声や「価格を上げたい」といった要望も上がったが、粘り強く協議を重ね、「個店らしさを持たせつつ、チェーン店としての安心感も維持する」という課題に取り組んだ。

「チェーン店のネームバリューは生かしつつ、各地域のニーズに合わせた店づくりを進めることが重要」と話す大阪王将の竹本光明取締役執行役員。
「チェーン店のネームバリューは生かしつつ、各地域のニーズに合わせた店づくりを進めることが重要」と話す大阪王将の竹本光明取締役執行役員。

 一連の取り組みは、数字にも表れている。コロナ禍の影響がある中でも、イートアンドHDの大阪王将を含む外食事業は、21年3~5月期の営業利益が3900万円と黒字化を達成。大阪王将の既存店売上高は「19年同月比で90%近くまで回復している」(竹本取締役執行役員)。繁華街の飲食店はオフィス街の人流が減った結果、活気をなくし、郊外でも大手を含めて不採算店舗の大量閉店が続く外食業界。そんな逆風の中では、十分健闘しているといっていい。

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