人口減少や大手流通業による寡占化で、急速に姿を消しつつある街の青果店。そんな衰退市場でも健闘しているのが、アグリゲート(東京・品川)が運営する「旬八青果店」だ。かつての常識とはかけ離れた出店戦術が、その成長を支えている。

オフィスや飲食店が立ち並ぶ旬八青果店の赤坂店。店先にはモモやスイカなどが並び、利用客が品定めしていた
オフィスや飲食店が立ち並ぶ旬八青果店の赤坂店。店先にはモモやスイカなどが並び、利用客が品定めしていた

 脇道を一歩入ると入り口にモモやスイカが置かれた青果店が姿を現す。店の名前は「旬八青果店」。売り場面積は20平方メートルほどと手狭だが、野菜や果物など300品目ほどの商品がずらりと陳列されている。

 運営するのは2010年に設立し、三井物産や農林中央金庫などが出資するアグリゲート。東京都内で業務委託店を含め8店舗を展開する。直営店の売り上げは月々700万~1000万円で、売り場面積30~50平方メートルの野菜・果実小売業法人の月間商品販売額(約480万円、経済センサス16年)を大きく上回る。

あえてオフィス街に集中出店

 同社が展開する青果店の特徴の一つは、企業の事務所や飲食店が立ち並ぶオフィス街と呼ばれる地域にあえて立地していることだ。冒頭の店も東京メトロ赤坂駅から2分の場所。このほかにも五反田駅(東京・品川)周辺や、臨海部の天王洲(同)など、青果店が通常ありそうな住宅街ではなく都心のオフィス街に出店している。

東京・五反田駅近くにある大崎広小路店。平日の昼下がり、近くの住民らが新鮮な野菜や果物を求めて訪れていた(写真:吉成大輔)
東京・五反田駅近くにある大崎広小路店。平日の昼下がり、近くの住民らが新鮮な野菜や果物を求めて訪れていた(写真:吉成大輔)

 青果店に限らず生鮮食品を扱う商売の鉄則の一つは、「できるだけ多くの人が暮らす場所」に店を出すことのはず。夜間人口の少ないオフィス街への出店は、かつての常識から見れば明らかに不合理な戦略だ。が、アグリゲート代表取締役の左今克憲氏は「現状の立地戦略こそ、今の東京で青果店として利益を出す最適な方法。ブルーオーシャンに近いと考えている」と話す。

 確かに、住宅街はそれだけ生鮮品への需要はあるが、良い立地であればあるほど今は競合他社でひしめき競争も激しい。一方で、オフィス街だからといって、青果店へのニーズが全くないわけではない。会社から帰宅する際に買っていく域外からの通勤客や、近隣の飲食店による需要もある。また、たとえオフィス街でも近隣に住んでいる人はいる。

 理想の場所に出店し顧客を奪い合うより、こうした“空白地帯”に出店し小さな需要を“独り占め”に近い状態で獲得したほうがトータルとして稼げる――。これがアグリゲートの基本的な考えというわけだ。

アグリゲート代表取締役の左今氏。「地方の生産者と都市部の消費者をつなぐメディアになる」と話す(写真:吉成大輔)
アグリゲート代表取締役の左今氏。「地方の生産者と都市部の消費者をつなぐメディアになる」と話す(写真:吉成大輔)

 もっとも、オフィス街であればどこでも出店するというわけではない。「13年の1号店の出店以来、何度も出退店を繰り返してきた。その中で学んだのが、『そうはいっても、域外からの通勤客や飲食店の需要だけでは経営は安定せず、利用者に占める近隣住民の割合を一定以上にする必要がある』ということだった」と左今氏は説明する。

 とはいえ、夜間人口があまりに多い地域を選ぶと、結局、既に競合がいるエリアに出店することになってしまう。そこでアグリゲートがルールとしているのが、「最低でも1km圏内の世帯数が2万以上の場所に出店する」ことだ。同社にとっては、この基準をクリアする青果店空白地域こそが競合が少なく、なおかつ安定的に利益も上がる“一等地”となる。

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