「らっしゃい、らっしゃい。今日は甘鯛(あまだい)が安いよ」――。威勢のいい店員の掛け声が響き渡る店内は、平日の午前中にもかかわらずにぎわっていた。ここは海辺の魚市場……ではない。埼玉県川口市の住宅街にある「角上魚類 川口店」だ。

 角上魚類は首都圏や甲信越地方に22店舗を展開する「鮮魚専門チェーンストア」。その多くが、内陸部のロードサイドに立地する大型店舗だ。しかし広い店内に並ぶのは魚とすし、そして海鮮を使った総菜だけで、肉や野菜は一切扱わない。驚くべきはその売り方だ。

角上魚類の店舗の多くは内陸部のロードサイドに立地している
角上魚類の店舗の多くは内陸部のロードサイドに立地している

 まるで魚市場のような対面販売コーナーがあり、1匹丸ごとの生の魚がずらりと並べられている。そして店員が客と対話しながら、魚を売っていく。創業者の柳下浩三・角上魚類ホールディングス(HD、新潟県長岡市)会長兼社長は「昔ながらの魚屋の商売を貫いている」と話す。

 だからセルフサービスが主体のスーパーと比べると当然、人件費はかかる。労働分配率(粗利益に占める人件費の割合)は約55%と、小売業の目安とされる約33%を大きく上回る。

 ではもうかっていないのかというと、むしろ逆だ。年間の売上高は394億円、経常利益は36億円(21年3月期)。営業利益率は約9%をたたき出す。イオンの1.8%(21年2月期)はもちろん、セブン&アイ・ホールディングスの6.4%(同)をも引き離し、隠れた小売りの優良企業といえる。徹底した省力化、効率化で利益を上げるスーパーとは正反対の業態はどうやって生まれたのだろうか。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り3270文字 / 全文3925文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「マーケティングのリアル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。