行動経済学の応用場面は着実に広がっている。新型コロナウイルス対策の政府の有識者会議に参加した行動経済学者の大竹文雄・大阪大学特任教授は「人間にはいろいろなバイアスがある。これを前提にして、制度を使ってもらうようにすれば、従業員や国民にとって良いこと」と指摘する。
■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)NTTドコモ、メッセージ配信で「そっと後押し」
(2)LCCピーチの「旅くじ」に大行列 あえて不便なものが売れるワケ
(3)タイガースファンも大爆笑 人が動きたくなるオモロイ“仕掛学”
(4)「モノ売らない店」に企業と消費者が押しかける理由
(5)後発ながらシェア奪取の勝ち筋、シミュレーションで学ぶ行動経済学
(6)気づけばステマで大炎上……行動経済学の「失敗」防ぐ5カ条
(7)大竹文雄・阪大教授「行動経済学は誰もが活用する時代に」(今回)

行動経済学の専門家である大竹さん。政府の新型コロナウイルス対策の専門家会議で委員を務め、感染対策で行動経済学の知見を生かしたそうですね。
大竹文雄・大阪大学特任教授(以降、大竹氏):今はワクチンや治療薬もあって状況は変わっていますが、2020年の最初の頃は、治療法もはっきりしないし、治療薬もない。ワクチンもないという状況でした。そのとき、感染対策で何ができるのかといえば、感染しないよう行動変容することくらい。日本の法律体系だと、海外のようにロックダウンもできません。マスクをしない個人に罰金を科すこともできないし、外出したら罰金とかもできない。
そういう前提の下で何かをしなければいけないときにできること。それが行動経済学的にメッセージをどう使うかというぐらいしかないわけです。
市民が不安を覚える中で行動変容を起こすのは容易ではないですね。
大竹氏:医師たちが使うメッセージは、「何々を控えなさい」というものが多い。そこで、「もう少し利得を強調するメッセージの方がいい」と提案しました。
メッセージによって感じる「利得」は、個人へのものでも効果がありますが、利他的な内容でも十分効果があります。最初の頃は「ちょっと努力して行動に気をつけるだけで人の命を救えます」というタイプのメッセージや「3密を避けるだけで、人の命が救えます」というタイプのメッセージで、行動変容を促すことを提案するようにしました。
また、若者のせいで高齢者が感染しているといった、分断を促進するようなメッセージもやめましょう、と。若者に向けてであれば「高齢者の命を救うため」に、「3密を避けることで高齢者の命を救えますよ」といった利得を強調したメッセージを繰り返しましょう、といったことを提案しました。
20年に「帰省中のポイント」というのを出したときも、原案は「帰省を控えてビデオ通話を利用しましょう」とか、「大人数での買い物は控えましょう」とか、控えましょうが多かった。行動経済学的に考えれば、「控えましょう」というだけで、「できない」という損失を人は強く感じるので、「ビデオ通話でオンライン帰省」などポジティブな表現に変えました。
「○○を控えましょう」というとすごく損失を感じますが、ビデオ通話でオンライン帰省というふうにすると、規制ができない状況に比べると、「オンライン帰省ができる」というふうに利得になるのです。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り3643文字 / 全文5034文字
-
「おすすめ」月額プランは初月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員なら
人気コラム、特集…すべての記事が読み放題
ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「マーケティングのリアル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?