日経ビジネス5月23日号特集「買わせる心理学 進化する本能マーケティング」の「行動経済学の基礎知識 本能をゆさぶる4つの法則」では、ちまたのマーケティングの背景にある行動経済学上の様々な理論・法則を解説している。

 では、読者の皆さん自身の会社や担当するビジネスではどう使えばよいだろうか。行動経済学に関する書籍を執筆する博報堂コンサルティングの楠本和矢執行役員が日経ビジネス向けに実践的なシミュレーションを示してくれた。

 老舗企業ながら後発で新市場に乗り込んでシェアを奪うーー。あなたならこの設定で、どのような戦略を取るだろうか。

■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
(1)NTTドコモ、メッセージ配信で「そっと後押し」
(2)LCCピーチの「旅くじ」に大行列 あえて不便なものが売れるワケ
(3)タイガースファンも大爆笑 人が動きたくなるオモロイ“仕掛学”
(4)「モノ売らない店」に企業と消費者が押しかける理由
(5)後発ながらシェア奪取の勝ち筋、シミュレーションで学ぶ行動経済学(今回)
(6)行動経済学が気づけばステマに…TikTokに失敗を学ぶ
(7)大竹文雄・阪大教授「行動経済学は誰もが活用する時代に」

楠本和矢(くすもと・かずや)
楠本和矢(くすもと・かずや)
博報堂コンサルティング執行役員。HR Design Lab.代表。神戸大学卒。丸紅で新規事業開発業務を担当し、外資系ブランドコンサルティング会社を経て現職。
 設定 
「メンズフェイシャルケア」市場に、老舗企業が新規参入

 我が社は、老舗の男性用トイレタリーメーカー。研究施設を有し、「肌」に関連するノウハウでは相当の蓄積がある。その自社リソースを活用した新領域への進出を検討し、導き出された計画が「メンズフェイシャルケア」市場への参入だ。

 マーケティング部門はあるが、量販店向けのトラディショナルな方法を長年続けてきたこともあり、なかなか新しい発想が生まれないのが悩みでもある。

 「メンズフェイシャルケア」市場は、これから有望な市場。一部の感度の高い生活者から、徐々に広がりを見せている状況にあり、市場はまさに成長期に差し掛かっている段階といえよう。

 現在は、とある新進企業の展開するブランドが台頭している。高感度なデザインが特徴で、フェイシャル以外の商品も様々にそろえる。最近は、超一流の芸能人をCMで採用するなど、なかなかに手ごわい相手だ。続いて、大手もいよいよ本格的に参入し始めた。我々は後発だ。

 現在、自社で開発中の商品は、肌のツヤを出す効果、アンチエイジング効果のある、フェイシャルクリーム/スプレー。販売チャネルは当面、通販を主体としていくことが決まっている。

 ターゲットは、「30代の、仕事も遊びも充実させたい、社交的なビジネスパーソン」とした。価格帯は、できるだけ多くのビジネスパーソンに普及させるために、月額1000~2000円程度で済むような構成。もちろん、今後はアップセル/クロスセルを狙うべく、商品を拡充していく予定。

 まさにこれから、ブランドを浸透させるためのマーケティング戦略を立案するタイミングだ。定番のマーケティングも行うのだが、後発なだけに、それだけでは訴求力がいかにも弱い……そこで、行動経済学の理論を活用する方法も、それと併用して考えてみることにした。

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