新型コロナウイルス禍で電子商取引(EC)の利用は加速度的に増え、広く一般化した。多くの企業がEC事業を始めたり拡大したりした結果、自社の製品やサービスを消費者に見つけてもらいにくくなっている。そんな中、注目を集めているのが「売ることを主目的としない店舗」。一見斬新なこの店にも、実は行動経済学の理論が使われている。
■連載予定 ※内容は予告なく変更する場合があります
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(3)タイガースファンも大爆笑 人が動きたくなるオモロイ“仕掛学”
(4)「モノ売らない店」に企業と消費者が押しかける理由(今回)
(5)後発ながらシェア奪取、シミュレーションで学ぶ行動経済学
(6)行動経済学が気づけばステマに…TikTokに失敗を学ぶ
(7)大竹文雄・阪大教授「行動経済学は誰もが活用する時代に」

5月中旬、ある平日の正午すぎ。新宿マルイ本館(東京・新宿)の1階の店舗「b8ta Tokyo-Shinjuku Marui」では、店舗スタッフと客が会話を交わしていた。
「このヘアブラシ、モデルやタレントの方々からも人気なんですよ」
「へぇ、肌にも優しそうですね」
どこのお店でもある何気ない会話。だが、この続きは、この店でしか聞こえないような内容だ。
「じゃあこれ、使ってみたいのですが」
「承知しました、少しお待ちください」
スタイリッシュなデザインの店舗の棚には、かばんに化粧品、運動用品、食品など約50種類の商品が「1点ずつ」並べられている。1つ売れたら商品がなくなってしまうのではと心配になるが、その必要はない。この店舗は「モノを売ることを主目的にしない店舗」だからだ。
ここは体験型店舗を運営するb8ta Japan(ベータ・ジャパン、東京・千代田)が2020年8月に開いた店舗で、自社製品の認知度を高めたい企業が出品し、それを目にした消費者にECサイトなどで買ってもらうのが狙いだ。出品する企業は店舗に商品を展示してもらう代わりに、b8taへ出品料を支払っている。消費者にとっても、実際に商品を手に取って眺めたり体験したりできるメリットがある。

出品する企業にとって、b8taの最大の魅力は消費者との接点を増やせることにある。何度も触れることでその商品やサービスへの印象が強くなり、興味・関心を抱くようになる。これは行動経済学で「ザイアンス効果」として知られており、b8taはそれを活用した「出合いの場」を創出しているのだ。購入後に「失敗した」と後悔した経験を持つ人も多いだろう。得を求めるよりも損を避ける傾向が強い点を行動経済学では「損失回避バイアス」と呼ぶ。実際に触れて試すことで、失敗を防ぎたい気持ちも、b8taの人気を支えていそうだ。
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