日経ビジネスが1万人規模の消費者調査からはじき出した「顧客推奨度(NPS、ネットプロモータースコア)」を基に、様々な業界の企業・ブランドを愛され度合いで順位付けした「推し企業」ランキング。フードデリバリー業界で大手のUber Eats(ウーバーイーツ)などを退けてトップになったのは、フィンランド生まれの新興ブランドだ。

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 新型コロナウイルス禍を機に急速に普及したフードデリバリーサービス。飲食関連の情報サービスを手掛けるエヌピーディー・ジャパン(東京・港)によると、2022年の国内市場規模は約7489億円と、前年から5.3%縮小したもようだ。

 新規参入が相次ぎ、戦国時代の様相を呈していたのが一転、22年は撤退する企業が相次いだ。コロナ禍が落ち着きを見せ、人々が「巣ごもり」を脱する中で市場の成長にブレーキがかかった形だ。

 そんな転機に差し掛かったこの業界の「推し企業」ランキングを制したのは、ウーバーイーツでもそのライバルの出前館でもなかった。

自転車で注文者の自宅や職場に向かう「ウーバーイーツ」の配達員(写真:西村尚己/アフロ)
自転車で注文者の自宅や職場に向かう「ウーバーイーツ」の配達員(写真:西村尚己/アフロ)

配達パートナーあえて「登録しづらく」

 フードデリバリーの2強を退けたのは、フィンランド発の新興ブランド、Wolt(ウォルト)だった。

 ウォルトは20年3月参入の後発組。展開地域は24都道府県41エリアで、全国47都道府県でサービスを展開するウーバーイーツや出前館に劣る。しかし「後発であるがゆえに、どうすれば我々を選んでいただけるのかを考えた」。Wolt Japan(東京・渋谷)の野地春菜代表は、そう振り返る。

 たどり着いたのは「おもてなしデリバリー」というコンセプトだ。磨いたのは、サービス品質である。

 この業界はNPSが他業界に比べて低い。それは「ボタンの掛け違いが起きやすいサービス」(野地氏)だからだ。消費者が求めるのは、出来たての料理を早く、丁寧に届けてくれること。その期待から少しでも外れると、厳しい評価にさらされる。かつてウーバーイーツの日本法人に在籍した野地氏は、そのことを痛感している。

Wolt Japanの野地春菜代表。ウーバーイーツジャパン出身で、21年2月Wolt Japanに入社。同年9月から現職
Wolt Japanの野地春菜代表。ウーバーイーツジャパン出身で、21年2月Wolt Japanに入社。同年9月から現職

 配達が遅い、届いた料理が傾いていた、配達員が無愛想だった、運転マナーが悪い──。不満の芽を摘み取って改善できなければ、二度と注文してもらえないシビアな業界だからこそ、ウォルトはカスタマーサポートの専門チームを社内に設置した。

 心掛けているのは、感情が伝わるコミュニケーション。一人ひとりのサポートスタッフに一定の裁量を与え、温かみのあるやり取りを実践している。顧客対応を外注し、コストを抑えるのではなく、投資領域と捉えて強化することで顧客体験を高める方向にかじを切った。

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