トップはスシローでもくら寿司でもなかった――。日経ビジネスが1万人規模の消費者調査からはじき出した「顧客推奨度(NPS、ネットプロモータースコア)」を基に、様々な業界の企業・ブランドを愛され度合いで順位付けした「推し企業」ランキング。今回取り上げるのは、ランキングで中堅企業が大手をしのぐ「下克上」が起きた回転ずし業界だ。
■連載記事のラインアップ
・「推しビール」首位はアサヒ 次期社長がやめた「押し付け」
・音楽配信の「推し」首位はアップル 巧妙な生態系、アマゾンと明暗
・旅行サイトは3強が大接戦 安定の老舗、固定ファンを逃さず
・「推し活」マーケティングの威力 定番おやつから新ビジネスが開花
・お薦めの回転ずし首位はあの伏兵 価格競争せず接客で「下克上」(今回)
・激戦ビジネスホテル 「推し宿」首位は大浴場と朝食でアパに勝つ
・ウーバーじゃなかった フードデリバリー「推し」首位は北欧生まれ
・愛されエアライン首位はANAかJALか 顧客の声から不断の改善
・「推しカード」首位は楽天カード 利用者の声、NPSで多角的に分析
・「推しアパレル」ZARAに軍配 グローバルワークやワークマンが追う
・資生堂・花王に勝った スキンケア化粧品の推し首位はリピート重視
・「業績アップの先行指標」 NPSを上げると株主にも恩恵
・値上げでも売れる王将、トミカ、メルセデス 強固なファンが下支え
ブランドを信頼し愛着を持たなければ、家族や友人に薦めることはできない。つまりNPSのスコアの高さは「ファン」の割合が高いことを示す。今回の調査で改めて見えてきたのは、必ずしも大手ばかりが愛されているわけではないということ。そのことを示した業種の1つが回転ずしだった。

この業界では大手チェーンだけでなく、事業規模も経営方針も異なる中堅チェーンも集客でしのぎを削る。今回のランキングで首位になったのは、スシローでもくら寿司でもない。大手との価格での真っ向勝負を避けつつ地歩を固めてきた中堅チェーンだった。
機械に「ありがとうございました」とは言わせない
トップとなったのは「すし銚子丸」だ。運営会社の銚子丸は関東1都3県に約90店を展開し、売上高は約170億円(2022年5月期)。規模で劣る同社がなぜ高い評価を受けているのか。その戦略を紹介しよう(ランキング表は次ページに)。
「いらっしゃいませ」「こちらお薦めですよ、いかがですか」──。入ってまず驚くのは、板前やホールスタッフからの声がけが多いことだ。

大手の店舗では、タッチパネルでの注文やセルフレジでの会計が一般的になり、店員と一度も顔を合わさずに食事が済んでしまうこともある。これに対し、銚子丸の石田満社長は「人を削減するためだけのデジタル技術は使わない」と話す。
例えば、注文用のタブレット端末。「会計」ボタンを押すと必ずスタッフが来て「ご注文はおそろいですか」と確認してからレジに案内する。レジも無人ではなく、操作はスタッフが行うセミセルフタイプ。機械に「ありがとうございました。またお待ちしております」と言わせることはできるが、銚子丸はあえてそうしない。
スタッフが来店客を出迎えるのにも理由がある。板前に「新規3名様です」と声をかけながら案内することで、客と板前をスムーズにつなぐ役割を果たしているのだ。
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