ドイツの自動車ブランド「メルセデス・ベンツ」は、2022年まで8年連続で輸入車新規登録台数1位を維持している。その強さは原材料費や物流費の高騰などによる値上げの後でも揺るがない。「愛されるブランド」を育てる秘訣は何か。日本法人、メルセデス・ベンツ日本(東京・品川)の社長に就任して10年になる上野金太郎社長が語る「愛されるブランド」戦略とは。

2022年の新規登録台数は約5万2000台と、輸入車で8年連続の1位となりました。どのような取り組みがこの成果につながっていると思いますか。
上野金太郎メルセデス・ベンツ日本社長兼CEO(以下、上野氏):私は新規登録台数が年1万~2万台程度のときからこの会社にいます。輸入車が定着したとまでは言いませんが、多くの方々の選択肢になってきています。
(メルセデス・ベンツ、独BMW、独アウディは)ドイツ御三家といわれ、似ている部分もあると思いますが、その中でもデザイン性や安全性を一番前に出しながら、日本国内でできることを模索し始めました。売るのに苦労した時期がなかったわけではありません。そのときに少しずつお客様の心をつかみ、ファンづくりをしっかりしていくことが大事だと感じたのです。
私たちは「高価だけど身近に感じてもらう」という対立する2つのギャップを狭めようとしてきました。前社長と当時副社長だった私が取り組みを始め、それが数年で花開いたという感じでしょうか。
「関係ない車」から「関係ある車」に

一番注力したことは何ですか。
上野氏:量販モデルである小型車「Aクラス」のフルモデルチェンジをきっかけに、よりお客様に親しまれる方向に(ブランドの打ち出し方を)振ったことです。それが10~11年前で、その少し前の2011年に、販売店とは別にブランド発信拠点「メルセデス・ベンツ コネクション」ができた。現在の「メルセデス ミー」の前身です。
私たちは輸入元(インポーター)という立場のため、個々の販売店のようにお客様との直接的な接点があまりありませんでした。そこに足を踏み入れて、さらにお客様のことをよく知りたいと思ったのです。
メルセデス・ベンツというブランドは知っていても、ちょっと近寄りづらい。「自分には関係ない車」から「自分に関係ある車」に持っていくことに最大限の力を入れました。ただ、身近なだけではだめですね。身近、かつ、手が届くか届かないかぐらいを意識しました。
顧客と接点を持つ上で、メルセデス ミーは斬新なアプローチでした。
上野氏:メルセデス ミーでは車を売らないので、買うプレッシャーは絶対に与えません。「トライアルクルーズ」と呼ぶ試乗があり、車を知ってもらい、良い体験をしてもらうことに傾注しています。
羽田空港にもメルセデス ミーがあって、洋服やアクセサリーの売り場、おそば屋さんに併設してドーナツ屋さんもあります。メルセデスとの接点をつくる場です。「車はこうやって売るんだ」というものはなく、いろいろな可能性がある。お客様にしっかりと実のある選択肢を提案すると、呼応してもらえます。
冷やかしも大歓迎です。「メルセデスは無理」と言っている人でも、何度も来た結果、購入に至った人もいる。いろいろな人にメルセデスを知ってもらいたいという気持ちでやっています。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り2604文字 / 全文3974文字
-
【春割】日経電子版セット2カ月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
【春割/2カ月無料】お申し込みで
人気コラム、特集記事…すべて読み放題
ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「マーケティングのリアル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?