企業は高等専門学校生や美術大学生ら、学生時代にスキルを培ってきた人材を奪い合っている。同時に今、注目されているのが高校の卒業生。いったん中止していた採用を再開する動きが相次ぐ。やる気のある高卒者を採用し、積極的に教育に投資すれば“エリート”になると期待する。

 「2年後に入社してくる大卒者には絶対に負けるな」

 住宅大手、大和ハウス工業の芳井敬一社長は毎年春になると、初々しい若者にハッパをかける。その相手は、高校を卒業したばかりの新人たちだ。

 同社は9年ぶりに、2018年4月入社から高卒採用を再開した。首都圏の工業高校の生徒を集め、会社全体で毎年10人前後が入っている。

大和ハウスが採用する高卒生は必ず2年間、専門学校に通ってから入社3年目で現場に出る(写真=加藤康)
大和ハウスが採用する高卒生は必ず2年間、専門学校に通ってから入社3年目で現場に出る(写真=加藤康)

 採用された高卒者は、入社と同時に建築系の専門学校に入学し、2年間は勉強に専念する。学費は会社負担で、給与も支払われる。夏休みなどの長期休暇で授業がない期間は現場で実務を学ぶ。入社3年目からは、その年度に入社してきた大卒・院卒者などと合流して研修を受け、やがて施工管理職として働き始めるという流れだ。この制度では入社後の2年間、現場の戦力にはならない。

 東京本社人事部長の菊岡大輔氏は高卒採用の狙いについて「仕事に必要な知識を身に付けていると確証をもって現場に送り込める」と話す。2年間みっちりと教育することで、優秀な人材を育てようというわけだ。

 高卒の採用再開後の1期生で、入社4年目の東京本店東京工事部の平野諒さんは「給与をもらいながら学校へ行けるなんてとてもありがたかった。専門学校では、他の生徒に負けてはいけないという意識で勉強した」と話す。

研修で年上に教える

 2期生の熊谷隼さんは「休暇中に実務経験を積んできた僕たちのほうが大卒入社の社員よりも専門用語や現場のルールを知っている。3年目の研修では自分たちが年上の大卒者に仕事を教えることもある」と話す。大和ハウスは会社を引っ張るエリートとしての役割を高卒者に期待している。

 大和ハウスがかつて高卒採用を中止したのは、社内の教育システムがまだ不十分だったことが理由だった。入社後すぐに現場に配属となる中で、小さな現場では18~19歳が1人で仕事をこなさなくてはならないことがあり、辞める人も多かった。

 厚生労働省によると、高卒者の就職後3年以内の離職率は約4割。1990年代後半~2000年代前半の5割からは下がったが、大卒者の3割に比べると依然として高い。しかし、大和ハウスの1期生の社員7人の離職率はゼロ。全員が専門学校を卒業し、2級建築士資格の合格率は大卒者と比べそん色ない。

 それもそのはず、「入社後2年間は勉強に専念するという条件が優秀な高卒者が応募してくる理由になっている」(菊岡氏)。あらかじめ2年かけて自ら育てることをアナウンスした結果、学習意欲の高い生徒が集まるようになったのだ。

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