「デザイン」を武器に企業の課題を解決へ導く存在として美術・芸術系の大学、学部の出身者が脚光を浴びている。製品の見た目を美しくするだけではなく、経営戦略や組織変革にまで携わり始めている。コンサルティング会社や地方自治体など、これまでデザイナーとは縁遠かった企業、団体が採用を強化する動きが相次いでいる。

アクセンチュアは美術系大学・学部の出身者を急いで確保している(写真:Joan Cros/NurPhoto/共同通信イメージズ)
アクセンチュアは美術系大学・学部の出身者を急いで確保している(写真:Joan Cros/NurPhoto/共同通信イメージズ)

 大企業を相手に経営戦略を立案してきたコンサルティング大手のアクセンチュア(東京・港)が2020年春、ある部署を新設した。デジタルマーケティングを担うインタラクティブ本部で、企業が商品・サービスを提供するときの消費者との接点構築が主な事業領域になる。

 インタラクティブ本部の中心的役割を担うのはデザイナーだ。コンサルタントやIT(情報技術)エンジニアと一緒になって、顧客企業の課題解決を目指す。

 同部門の佐藤守シニア・マネジャーが、デザイナーに求めることをこう説明する。

 「人々が気づかない価値や課題に気づくこと。それをカタチにしたり、解決したりすること。そんな力を持った人材を求めている」。その背景には、顧客体験をより豊かにする新事業のコンセプトを練ったり、今までなかったブランドを創ったりするなど、消費者の心をつかむサービスをデザインする必要性の高まりがある。

企業のデジタル化が進む中でコンサルティング会社の事業領域も従来とは様変わりしている(写真:Shutterstock)
企業のデジタル化が進む中でコンサルティング会社の事業領域も従来とは様変わりしている(写真:Shutterstock)

 例えばインタラクティブ本部が開発した日本コカ・コーラのスマートフォンアプリ「Coke ON(コーク オン)」は、自動販売機でドリンクを買ったり、歩いたりするだけでもポイントがたまるなど工夫が詰まったサービス。アプリのダウンロードは数千万回に上る。

多摩美術大学などにターゲット

 デジタル化が企業の戦略の中軸となる今、デザインに強い人材を集めるため、2021年卒の採用活動から設けた職種が「クリエイティブ/デザイン」だ。多摩美術大学や武蔵野美術大学など、美大・芸大出身者が約10人入社した。デザイン人材については5年ほど前から中途採用を強化していたが、足りないため採用の対象を新卒にまで広げて増員中だという。

 美術・芸術系の大学としては国立の東京芸術大学、私立では東京造形大学、女子美術大学なども知られている。また日本大学の芸術学部など、美術・芸術を学べる総合大学も多い。

 企業の採用事情に詳しい関係者は「こうした学生は奪い合いになっていく可能性が高い」とみている。様々な企業において今後一層、経営とデザインが密接につながるからだ。

 ユーザーインターフェースという言葉に代表されるように、デジタルサービスを使いやすく作れるかどうかが経営を左右する時代。しかも、デジタル化の取り組みは、商品のアイデア出しから開発、販売、アフターサービスまであらゆるビジネスプロセスに関わる。どれ一つとっても従来の延長線上にはない発想が求められるが、発想力やクリエーティビティーを持った人材を社内で育成するのは容易ではない。

 そのため企業が「今まで採用してこなかった人材」に活路を見いだそうとしており、美術系の学生にラブコールを送る。

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