高等専門学校(高専)が、デジタル時代を切り開くエキスパートを育てるため専門教育に本腰を入れている。大企業や行政が直面するサイバーセキュリティー、AI(人工知能)を使ったデータ分析など新カリキュラムを次々展開。社会課題の解決に強い高専へと脱皮を図っている。

 太平洋に面し南国の日差しが降り注ぐのどかな土地に建つ高知工業高等専門学校(高知県南国市)。だが、そんなのんびりとした風土と違って教室ではパソコン画面に生徒らが真剣な眼差しを向ける。

 「サイバー攻撃を仕掛けてみて、相手が防御できるかシミュレーションしてみてください」。3年生を対象にした「情報セキュリティコース」の講義でソーシャルデザイン工学科の岩崎洋平准教授の指導の合図のもと、サイバーセキュリティーを巡る生徒らの”攻防戦”が始まった。

 生徒は岩崎准教授から、ほとんど何も教えられない。ソフトウエアのインストールから、サーバー環境の構築、ネットワーク上の欠陥の発見から防御まで与えられた手順書だけを頼りにセキュリティ―システムを作り込んでいく。手順書にはコマンドの打ち込み方や、IPアドレスなど用語の解説といったことが書かれてあるだけだ。

サイバーセキュリティーのエキスパート養成に力を入れる高知高専
サイバーセキュリティーのエキスパート養成に力を入れる高知高専

 他人のサイトに不正ログインして侵入したり、サイトを乗っ取る不正プログラムを仕組んだりと攻撃するのも生徒。時には生徒同士で話し合いながらプログラムの欠陥を発見したりそれへの対策を打ったりするが、岩崎准教授は課題をクリアするまで口出ししない。演習は休憩をはさみながら3時間ぶっ通しでやる。

 その様子は企業実務そのもの。例えば総務部社員に扮(ふん)する生徒から「サイバー攻撃を受けた」と連絡が入ると、すかさず顧客対応の部署に対策の進捗状況を伝える。「即戦力を磨かないと企業では通用しない。利害関係者との調整も含めて自分で考え、突破できる力を身に付けてほしい」。岩崎准教授の演習の狙いは明快だ。

日立や外務省が出前授業

 高知高専はこの情報セキュリティーコースを6年前に開設した。30近くの専門科目を学ぶ。さらに2020年度からは独立行政法人、国立高等専門学校機構から「COMPASS5.0」の中核拠点校の指定を受け、一層実地を重んじるカリキュラムがスタートした。COMPASSとは、次世代の産業創造やイノベーションを担える人材の育成プログラムを指す。サイバーセキュリティーに加え、AI・データサイエンス、高速通信規格「5G」を含むIoT・起業家教育、ロボティクスの4分野で全国11校を指定している。

国立高専機構は全国の11校をデジタル時代を見据えた拠点校に指定している(旭川高専でデータサイエンスを学ぶ学生)
国立高専機構は全国の11校をデジタル時代を見据えた拠点校に指定している(旭川高専でデータサイエンスを学ぶ学生)

 高知高専にはサイバーセキュリティーサービスを手掛けるラック(東京・千代田)や日立製作所グループ、外務省なども出前授業に訪れ、企業が抱えている課題への対処法を指南する。

 同コースの5年生で来春の就職先も内定した古味佑樹さん(20)は、高専生を対象にしたコンテストで上位に食い込んだ実績を多く持つ。技術の腕前だけでなく、キャリアデザインについても入念に考え「10年後にはシリコンバレーは終わっているかもしれない。起業も選択肢の一つ」と言ってのける。

 岩崎准教授は「量子コンピューターの普及などでコンピューターやセキュリティーの分野では今後パラダイムシフトが起きる。変化の激しい時代に適応できる人材を育てる役目が高専にはある」と使命感に燃える。

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