日本ではこれから大学の卒業者が減少し始めて人材が減っていく一方、あらゆる産業で変革の競争が進む。従来にない発想力や課題解決力を発揮できる多様な人材を確保することが欠かせない。進むのは学歴のダイバーシティーだ。連載ではまず3回にわたり、有望株として評価の高まる高等専門学校(高専)出身者やその採用現場を取り上げる。

 「抜群のスキルの持ち主。受け答えなどコミュニケーション力も高く、将来がとても楽しみ」。2022年春、クラウドサービス大手のさくらインターネットへの入社が内定した旭川工業高等専門学校5年生の吉沢太佑さん(19)は、同社から太鼓判を押される逸材だ。

 電気情報工学科でウェブサイト開発などのプログラミング習得に熱を上げた。家電や産業機器を制御するラズベリーパイを使った組み込みソフトウエアでも才覚を見せつけた。

 同学科の篁耕司教授は「バグが出ないプログラムを誰よりも速く正確に書き上げる技術は折り紙付き」と話す。

旭川高専はデータサイエンスに力を入れる。必死にプログラミングなどを学ぶ学生たち
旭川高専はデータサイエンスに力を入れる。必死にプログラミングなどを学ぶ学生たち

コロナ分析技術、北海道庁が採用

 高専生の知られざる実力の一端を吉沢さんに見ることができる。新型コロナウイルス禍に襲われた20年。自分の力で世の中に貢献できないかと、持ち前の発想力を巡らせた。

 着目したのは北海道庁などが公表している感染者などのオープンデータ。データを自ら抜き出し、利用者が見やすいチャートにしてはどうだろうか――。

 プログラミング技術を使って数字の羅列だったデータをビジュアル化しウェブサイトとして公開した。利用者が欲しい情報を画面を操作して見られるようにもした。すると「分かりやすい」と評判になり、北海道庁がサイトへの採用を決めた。サービスは北海道総合通信局から表彰された。コロナ禍という未曽有の危機に、高専生特有の発想力と行動力をいかんなく発揮した。

 日本では22年から大学卒業者が減少に転じる「新卒採用2022年危機」がささやかれ始め、人材確保が年々、苦しくなっていく。加えて、「地頭」の良さに期待して高偏差値の大学の卒業生をできるだけ確保しておくという考えに頼っていると、潜在的なスキルを持った人材を見落としかねない。今までと違う目線で「金の卵」を探し出すことが欠かせない。

 企業から熱い視線を送られる高専生は、北海道から沖縄県まで全国57校(国立51校、公立・私立計6校)で学んでおり、5年間の「本科」を卒業するのは毎年8700~9000人ほどだ。このうち約6割が就職する(注:記事の最後に「高等専門学校(高専)とは」を掲載)。冒頭の吉沢さんが内定を決めたさくらインターネットは、高専生の力量を知るがゆえに、一般に偏差値で格付けされてきた“大学のブランド”にはこだわらない企業だ。

 吉沢さんが同社を選んだ動機は「『やりたいことをできるに変える』という企業理念に共感したから」だという。もう一つの理由は「自分の持ち味をしっかり理解してくれて、入社時に、大学生や大学院生とも待遇に差をつけないこと」だった。

高専の教授から「プログラムを誰よりも速く正確に書き上げる技術は折り紙付き」と評価される吉沢さん
高専の教授から「プログラムを誰よりも速く正確に書き上げる技術は折り紙付き」と評価される吉沢さん
吉沢さんが開発したソフトは北海道庁に採用された
吉沢さんが開発したソフトは北海道庁に採用された
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 同社の採用ポリシーについて、ES部の矢部真理子人材支援グループマネージャーは「学歴によるふるいは一切かけない」と説明する。そのうえで「実力本位。行動力があるかどうかも見極めて採用している」。

 その証左が初任給に表れている。一般的に多くの企業では、初任給の水準について「短大・高専卒」「大学学部(学士)卒」「大学修士・博士修了」などと段階的に分けている。だが、同社はエンジニア社員は27万7000円以上、営業などビジネス担当社員は25万4000円以上と、担当業務によって一律に相場を決めている。

 日本を代表する企業の一つ、日立製作所の高専卒の初任給は19万500円(AI=人工知能や、デジタル関連の採用者を除く20年4月実績)で、大学学部卒より2万5000円少ない。

 一般的に高専卒の初任給は大卒より低い。理由の1つは年齢が若いことにある。高専は中学卒業後、5年間学ぶコースが基本だ。大学生は高校と併せ7年間学ぶ。その2年間の差が給与に反映されるわけだが、さくらインターネットの採用方法はこうした慣例と無縁だ。

続きを読む 2/3 求人倍率は20~30倍

この記事はシリーズ「学歴ダイバーシティー 脚光浴びる高専、美大、高卒人材」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。