え、そうなんですか!? てっきりメンバーシップ型から完全に脱却しようとしているのだと思っていました。

山田氏:今の日本の仕組みや制度のままでは無理なんです。理由は大きく二つあります。

 一つは、就職前の職業訓練の問題です。ジョブ型では、企業が求めるジョブに合った人材であることを自ら示す必要があります。海外では学生が在学中に3カ月~半年ほどの長期インターンシップを複数経験したり、卒業後に企業でアルバイトしたりして、企業にアピールできる実践的な能力を身に付けます。日本のインターンシップは1週間など短期間のものが多く、能力を身に付けられるほどではありません。

私が就職活動をしたときも、企業説明だけで終わってしまったインターンシップがありました。

山田氏:そういう企業もあるんですよね。採用活動の一環として学生の人柄を見たり、学生に興味を持ってもらおうとしたりするだけのインターンシップが少なくない。

 今は新卒一括採用が中心ですが、大学も企業も職業訓練の場を十分に与えられていない。その状況で、ジョブに求められる実践的な能力を持っているかどうかを学生に問うのかという問題があるわけです。

 それに、企業は人材の新陳代謝のためにもある程度の人数を採用したいんですよね。ジョブ型採用で人事配置の柔軟性を大きく狭めるのは避けたいところでしょう。新卒で入社してから職業訓練をするのが当たり前になっているわけですから。

「新卒で年収2000万円も」といった採用方針を打ち出した企業が話題になったこともありますよね。こういった動きとジョブ型は関係があるのでしょうか。

山田氏:多かったのは研究職などの専門人材の採用ですね。海外の有名な学会で論文を通しているとか、ソフトウエア開発で素晴らしい実績を残しているとか、そういった高度人材を採用したいという狙いです。学生のキャリア意識の高まりも背景にあります。

 これはジョブ型に近いと言えるでしょうね。研究開発などで求めている高度な役割を果たせる人材を、それに見合った賃金で雇用しようという考え方です。ただし、学生時代の研究や個人的な活動の成果から業務を担える能力があると判断できる人たちに限ります。ジョブ型採用の一つの動きではありますが、多くは従来の新卒一括採用を維持するでしょう。

就職前に職業訓練に近いことができる人材は確かに限られそうですね。自分の同級生を見ても、入社してからの研修やOJT(職場内訓練)で仕事のやり方を学んでいる人ばかりです。

山田氏:ジョブ型への完全な移行は無理だと私が主張する理由のもう一つは、解雇規制です。海外では契約内容の仕事がなくなると解雇されますが、日本では会社都合での解雇は法的には難しい。別の仕事に就かせるなどして雇用し続けることが求められます。

 日本の労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」とあります。この条文が会社都合での解雇を防ぎ、労働者を守っているのです。

よく「1000人削減」といった企業の人員削減の報道がありますが、あれは解雇ではないのですよね。

山田氏:日本企業がやっているのは、自主的に退職してくれる人の募集なんです。退職金を上積みしたり転職を支援したりといった条件を提示して、希望者に手を挙げてもらう形です。それで、結果的に人数を減らしている。

 欧米の企業の場合は、特定のポストが存在することを前提に雇用契約が成り立っているので、ポストがなくなれば雇用契約も解消されるのです。ただ、欧州の場合は、雇用調整の対象を誰にするかとか、どのような保障措置を講じるかに労働組合が強く関与し、従業員を守る役割を果たしています。

なるほど。雇用慣行が欧米と違う日本で、純粋な「ジョブ型」に移行するのは難しいということがよく分かりました。結局、メンバーシップ型を維持するしかないということでしょうか。

山田氏:決して悪い面ばかりの制度ではないと思いますよ。維持できるのであれば、それでもいいと思います。

そうなんですね。ではなぜジョブ型が今……って、最初の質問に戻ってしまいますね。そのあたりにジョブ型の議論の本質がありそうな気がしてきました。

(次回に続く)

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