優秀な人材の確保も意識

確かに人事関連の取材をしていると「うちの会社はバブル期の入社が多い」といった企業の話を聞くことがあります。

山田氏:そう、特に経団連に所属するような大手企業は1980年代までは積極的に新卒採用してきたところが多いんです。バブルが崩壊し、就職氷河期があり、その後もリーマン・ショックなどの影響を受けて採用を絞る傾向が強かった。

 もう一つの理由は、優秀な人材を確保することです。一昔前なら、あまり望まない仕事であっても我慢して続けていれば昇給し、偉くなれました。しかし、今は給料も以前ほど上がりません。経済も停滞し、上には高い年齢層の社員が列をなしていますからね。

<span class="fontBold">山田久(やまだ・ひさし)氏</span><br>日本総合研究所 副理事長<br>1987年に京都大学経済学部を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)入行。日本経済研究センターや日本総合研究所への出向を経て、98年に日本総研調査部の主任研究員に就く。2015年に京都大学博士課程(経済学)を修了。19年より現職。専門分野はマクロ経済分析、経済政策、労働経済。
山田久(やまだ・ひさし)氏
日本総合研究所 副理事長
1987年に京都大学経済学部を卒業し、住友銀行(現三井住友銀行)入行。日本経済研究センターや日本総合研究所への出向を経て、98年に日本総研調査部の主任研究員に就く。2015年に京都大学博士課程(経済学)を修了。19年より現職。専門分野はマクロ経済分析、経済政策、労働経済。

 すると、特に若い人材は、働き方がもっと自由で、やりたい仕事ができる企業に流れがちです。外資系企業やスタートアップなどに行く若手が増えるわけです。優秀な若手をつなぎ留めるためにも、ジョブ型の人事制度に変えることでやりがいや相応の賃金を与えられるようにしたいという企業側の思いがあるのです。

 それに、今はデジタル化や脱炭素への対応など、企業を取り巻く環境が目まぐるしく変わっていますよね。新しいことをやろうとすると、これまで企業の中で育ててこなかった人材が必要になる。ポストと役割を明確にして外部の人材を呼び込むためにも、人事制度をジョブ型にしたいという企業の考えがあるのです。

なるほど、企業側の人件費の削減と優秀な人材確保という狙いが根本にあるんですね。少し話を戻してしまいますが、先ほど「成果主義」のお話がありました。成果主義とは「成果を残した人に手厚く、そうでない人には少なく賃金を支払う」ということですよね。

山田氏:基本給と賞与を分けて考えたほうがいいですね。パターンはいろいろあるのですが、典型的な成果主義では、賞与は成果に強く連動して決まる一方で、基本給は社内等級で決められます。そのため、年功序列の要素が残りやすいのです。

成果主義はなぜうまくいかなかったんでしょうか。

山田氏:成果主義が広く議論されるようになったのは1990年代でした。そのころの会社の課題は今と似ています。バブルが崩壊して経済が低迷し、年功序列で毎年上がる給料を支払いきれなくなってきたんです。そこで、かつては基本給と連動する傾向が強かった賞与を、成果との連動性が高いものにしようと考えたわけです。

 ただ、成果をどのように測るかという難しさがありました。マネジメント能力や効率などは客観的指標では測りにくいですからね。結局、年功序列で基本給が高い社員に手厚く支払うような状況が続いてしまった。もっとも、経験は仕事の能力を高めるために重要な要素なので、年功的になることに一定程度の合理性はあると思いますが。

 それに加えて、導入した企業から「他人の仕事を横取りして自分の成果にした」とか「短期的な成果ばかり重視して長期的な視野での取り組みが軽んじられる」といった声も上がるようになりました。さらに、職場が「評価される人」と「評価されない人」に二極化して雰囲気が悪くなり、全体の生産性が低下したケースも見られました。

 このように、経営から見たマイナス面が顕著になってきたことで、成果主義は下火になっていきました。

成果主義のときと今で、企業の問題意識に違いはあるのでしょうか。

山田氏:今回のジョブ型は、成果主義のときよりは成長を意識した前向きな取り組みの側面が強いですね。人件費を増やさないという狙いもありますが、優秀な人材確保や技術革新への対応などに重きを置いているのが違いです。

 そんな状況ではあるのですが、欧米で一般的なジョブ型に日本が完全に移行することは、数年では不可能です。