欧州より約20年遅れで、本格稼働した日本の脱炭素市場。「未開の地」を求めて洋上風力発電の開発を急ぐのが、東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERA(東京・中央)で再生可能エネルギー開発の指揮を執る執行役員の矢島聡だ。東京電力で国際事業を初期から担当。福島第1原子力発電所の事故による存続の危機も乗り切り、2016年にJERAの再エネ部門を6人でスタートした。洋上風力で世界市場を見据える。(敬称略)

JERAで再生可能エネルギーの開発の指揮を執る矢島聡執行役員。数々の苦難を乗り越え、現在に至る(写真:的野弘路)
JERAで再生可能エネルギーの開発の指揮を執る矢島聡執行役員。数々の苦難を乗り越え、現在に至る(写真:的野弘路)

 9月中旬のとある週末、秋田県由利本荘市の海岸で「おはようございます!」の声が響いた。由利本荘市長や秋田を拠点にする女子バスケットボールリーグの選手ら地元の人々による清掃活動に元気良く参加したのは、前日に東京から飛行機で秋田入りをした、JERA執行役員の矢島聡。雨がっぱを着た矢島は小雨の降る中、地元の人たちと連携しながら約1時間の清掃活動に汗を流した。

 矢島が地域貢献活動に力を入れるのは、全国有数の洋上風力の適地である秋田県で、JERAが事業展開を狙っているためだ。今年5月、同県の2地域を対象にした国による洋上風力発電事業者の公募でも名乗りを上げた。JERAが注力する再エネ事業で指揮を執る人物が矢島だ。

 米エンロンの経営破綻に伴って退職、02年に東京電力に入社した転職組だ。新卒後に入社した大手商社の丸紅では9年間、主にエネルギー領域のビジネスに携わった。そして当時、電力、ガスなどの取引をオンライン化し、インフラ産業に新風を吹き込もうとしていたエンロンに「日本の電力業界に風穴を開けよう」と意気込んで入社。しかし、同社の破綻によって約3年で再び転職することになり、東電にたどり着いた。

東電は「再エネ事業も伸ばす必要があると考えていた」

 東電と矢島のニーズは互いにうまく合致した。1990年代後半、世界では国境を越えたエネルギーの開発が黎明(れいめい)期にあり、東電が国際事業に力を入れようとしたところだったからだ。そこには、商社時代、海外事業の開発に携わってきた矢島のノウハウが生かされた。

 国際事業部は、海外で火力発電に投資をしながら、国内では再エネへの投資も担っていた。当時、再エネは電力会社の中で脇役にすぎなかった。しかし、「当時の東電は再エネ事業も伸ばす必要があるとの考えで、度量があった」と矢島は振り返る。東電は2002年、風力発電を手掛けるユーラスエナジーホールディングスの50%の株式を取得。04年当時、ユーラスは欧米で100万kW分の陸上風力を手掛けており、東電は同社を世界一の風力発電企業にする夢もひそかに抱いていた。

 東電の国際事業は10年、その先10年間で国際事業に最大1兆円を投資する目標を発表。矢島もすっかり東電になじみ、海外投資を手掛けるグループのエースになっていた。ところが、これから一段と事業を大きく成長させようとした矢先の11年3月、東電福島第1原発事故が起きる。

 この事故をきっかけに、東電を取り巻く環境は180度変わった。今まで契約は紙1枚でできるほどの信用力があったが、東電の格付けも下がることで、金融機関などの対応は一変。社内では、「国際事業なんてやっている場合じゃないだろう」「事業をまるごと売った方がいいのでは」との声も出た。

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