岩手県の最北端、のどかな田園風景が広がる軽米町。その山の中に、ポツンと1基の風力発電所がある。地上から50mの高さで回転するこの風車は、最大1990kWの出力があり約1200世帯分の電力を賄える。

 この町にある3751世帯の約3分の1に供給できる計算だが、実は、電力を利用しているのは町外のユーザーだ。電力小売事業を手がけるみんな電力(東京・世田谷)を通じ、はるばる約600kmも南にある横浜市で電力は販売されている。今年4月、同市内の建設会社や、民間の保育施設などへの供給が始まった。

岩手県最北の軽米町にある風力発電所の電気は横浜市で利用されている
岩手県最北の軽米町にある風力発電所の電気は横浜市で利用されている

 国の電力自由化政策によって、軽米町はここ5年で「再エネ王国」へと変貌を遂げた。町内のバイオマス、風力、太陽光(一部建設中を含む)の合計出力は21.7万kWに上る。例えば東北電力の新潟火力発電所(新潟市)は出力10万9000kWなので、その2倍。いかに大きいかが分かる。これまで再エネ発電を手がけるレノバをはじめ、関連企業が次々と進出した。

 町内の発電量を分子に、電力使用量を分母にした「電力自給率」は、自給自足の達成を意味する1倍を大きく上回り17倍を超えた。発電量のうち94%超を町外に売っている計算だ。

 軽米町にとって、発電事業の拡大は町の生き残りをかけた産業政策である。町内の人口は1960年頃をピークに減少を続け、今はほぼ半減の約8600人。このままだと2040年には今より3割減の約5900人になる見通しで、高齢化と過疎化に拍車がかかり、行政機能の維持すら危ぶまれる。

横浜、自力の再エネ10%

 山本賢一町長は「農畜産業を振興するためにも、再エネ企業の誘致を進めたい」と語る。発電による売電収入の一部を町の基金に入れる仕組みをつくり、発電業者と契約を交わしてあるからだ。20年度は約800万円が基金に入り、今後は1300万円を見込む。軽米町は黒毛和牛や地鶏の飼育で知られているが、担い手の確保が課題だ。後継者育成のための補助金にこの基金を当てている。いったん町外に出た若者を呼び戻して就農してもらう貴重な財源となっている。

 こうして、人口と経済活動を維持するためのカンフル剤として再エネを利用したい軽米町と、グリーンな電力を調達したい横浜市の思惑が一致した。横浜市は50年に「脱炭素社会」を築くというゴールを描くものの、市内で賄える再エネは全電力使用量の10%しかない。そこで、発電余力のある東北に目をつけた。

 ただ、電力に産地表示があるわけではない。「岩手県産のリンゴ」を銘柄指定で買うのとは勝手が違う。そこで名乗りをあげたのは、デジタル技術で「顔の見える電力取引」を掲げるみんな電力だった。軽米町の風力発電所は、三菱HCキャピタル傘下のくろしお風力発電(茨城県日立市)が運営している。電力はいったん送電網を持つ東北電力に販売され、そこからみんな電力が調達して横浜市内の需要家と契約する。

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