国が7月に公表した新たなエネルギー基本計画の原案で原子力発電の位置付けは玉虫色の内容となった。全電源に占める比率は20~22%を掲げるが、達成はいばらの道。原発は二酸化炭素(CO2)を排出せず、不安定な再生可能エネルギーを補う「ベースロード電源」として欠かせないが、再エネばかりが注目され陰に隠れがちになっている。電力会社だけが再稼働や新増設に向けた議論など生みの苦しみを味わっている。

 「原子炉への注水手段を検討せよ!」。中部電力・浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の一室にある訓練施設。運転員が真剣なまなざしでシミュレーターを操作している。そばでその様子にじっと目を凝らすのは、東京電力ホールディングス(HD)の柏崎刈羽原発(新潟県)や北陸電力・志賀原発(石川県志賀町)の運転員だ。

 これは炉心溶融や全電源喪失など緊急時に、手順通り原発を制御する本番さながらの訓練。北陸電や東電HD社員が正確に対応できているか評価し、時には疑問点を指摘して議論を深める。逆に中部電が柏崎刈羽に出向いて評価することもある。こうしてお互いに技能を持ち寄り、来るべき再稼働に備える。

中部電と東電、北陸電は互いにシミレーション訓練を通して技能を確認し合う
中部電と東電、北陸電は互いにシミレーション訓練を通して技能を確認し合う

 ここまで徹底するのは現場経験者が次々とリタイアしていくからだ。この原発は停止してから約10年がたつ。つまり入社10年目までの社員は実際に原発を操作した経験がない。再稼働が遅れれば遅れるほど実地での技能継承はやせ細る。

 制御室から指示を出す運転員の世代交代は進む一方で、これまで指示を受けていた方は現場経験がないまま指示する側に回る。中国電力の担当者は「現場経験が乏しい状況は過去にない深刻な課題」と指摘するが、これは全国の原発が抱える頭痛の種だ。

 シミュレーションだけでは分からないと、中国電力では自社の火力発電所にのべ57人の原発要員を派遣。音、熱、振動を体感し、実際に動く装置や計器をみて動作確認することでモチベーションの維持を図っている。

「原発、針路が見えない」

 電力各社が技能の確保に必死になる中、現場を失望させたのが7月に国が公表した新たなエネルギー基本計画の原案だった。2030年に温暖化ガス46%減を掲げた後、初となるエネ基だったが、原発比率は2030年度20~22%と据え置いた。

 原発について「持続的に活用していく」と「可能な限り原発依存度を低減する」という一見相反する両論を併記。その場しのぎの玉虫色の決着に電力会社幹部は「針路が見えない」とうなだれる。

 国は脱炭素に舵(かじ)を切り、再エネ拡大に突き進む。だが、季節や天候、昼夜を問わず安定して発電し、電力を供給できるベースロード電源の議論は置き去りのままだ。

 エネ基の公表前には水面下で経済産業省資源エネルギー庁と環境省との激しい攻防があった。「リプレース(原発建て替え)は必ず入れたい」。今春、こうした要求を突き付けた資源エネルギー庁に対し、小泉進次郎大臣が率いる環境省は前向きに取り合おうとはしなかった。

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