ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、英エネルギー大手のBPやシェルなど資源メジャーがロシアのエネルギー事業からの撤退を決めた。対照的に手を引けないでいるのが日本やドイツだ。北海で原油や天然ガスを採掘できる英国と違い、特に日本は独自資源が乏しい。現在のエネルギー事情を見渡すと、選択肢が乏しい日本の極めて困難な現実が浮かび上がった。

 円安・ドル高が進んで輸入物価は上がり、政府がエネルギーの節約を国民に呼びかける――。現在のウクライナ危機によってあり得る想定にも見えるが、1975年の小説『油断!』の内容だ。

 後に旧経済企画庁の長官を務めた故・堺屋太一氏が第1次石油ショックの2年後に発表。再び世界が原油不足に見舞われるとのシナリオを示した。実際、79年にはイラン革命を発端として第2次石油ショックが起きた。

 現在、自民党でエネルギー政策に詳しいある議員は「あの小説を単なるフィクションと思ってはいけない。当然のように使っている油が断たれるから『油断』だし、足元の日本ではLNG危機にならないよう全力を尽くす必要がある」と語る。

日本が抱えるジレンマ

 「可能な限り人道的な政策を打つべきだが、我々がエネルギー不足に陥ったらウクライナへの支援まで困難になってしまう」。3月下旬、ある経済官庁の幹部は日経ビジネスの取材に対し、苦しい胸の内を打ち明けた。

 懸案となっているのはロシア極東での資源開発事業「サハリン2」だ。日本に対して年約600万トンのLNG供給力があり、これだけで日本のLNG総輸入量の1割弱を占める。ウクライナ侵攻前まで出資比率はロシア国営ガスプロムが約50%、シェルが約27.5%、日本の三井物産が12.5%、三菱商事が10%だった。

 ロシアのウクライナ侵攻からわずか4日後の2月28日、シェルはサハリン2からの撤退を表明。ベン・ファン・ブールデンCEO(最高経営責任者)は、ウクライナ侵攻について「無意味な軍事侵略行為」などと糾弾する声明を出した。

 日本もこの軍事侵攻を批判していることに違いはないが、日本政府も、出資している商社もこれほど強いアクションを打ち出すことは困難だ。前提条件が英国と日本では大きく異なるためだ。ブリューゲル研究所(拠点はベルギー・ブリュッセル)のシニアフェロー、シモーネ・タリアピエトラ氏は「英国や米国はロシアからのエネルギー輸入が少なく、容易に貿易を制限できる」と指摘する。

日本の多くの電力・ガス会社がロシア極東の「サハリン2」からLNGを調達している(写真:東京ガス)
日本の多くの電力・ガス会社がロシア極東の「サハリン2」からLNGを調達している(写真:東京ガス)

 国際エネルギー機関(IEA)によると、日本は天然ガスの98%を輸入に頼る(2019年時点)。天然ガス輸入の5割強をロシア産に頼るドイツも苦しい状況で、ショルツ首相は欧州がロシアからの燃料輸入を禁じるべきではないと強調してきた。これに対して、英国は自国産の天然ガスで内需の51%を賄え、残りの多くはノルウェーからの輸入が占める。ロシア産天然ガスへの依存度は需要のわずか約5%に限られ、しかも代替手段があるのは日独との大きな違いだ。

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