(前回は「花王、取引先・顧客巻き込み 汚れゼロ、カーボンゼロ」)

 脱炭素時代に勝ち残るには、収益構造や経営の仕組みを大きくつくり変える覚悟も問われる。時として痛みやストレスを伴う変革に、組織全体がどこまで逃げずに向き合えるか。それが脱炭素経営の成否を分ける。日立製作所が評価されたのは、会社を丸ごと新時代の仕様につくり直す、骨太な改革を続けているためだ。

 2008年のリーマン・ショック後、日立は経営難に陥った。09年3月期、当時国内製造業で過去最大の7873億円の最終赤字に転落し、存続の危機にひんする。川村隆社長(当時)は自ら再建資金の調達に奔走。令和まで続く事業ポートフォリオの抜本改革が始まった。

日立製作所の東原敏昭会長兼最高経営責任者(CEO)は、グループ全体がどよめくほどの非常に高い脱炭素目標を打ち出した
日立製作所の東原敏昭会長兼最高経営責任者(CEO)は、グループ全体がどよめくほどの非常に高い脱炭素目標を打ち出した

このままでは会社がなくなる

 大きな軸になったのが「デジタル化」、そして「脱炭素」だ。関連性の低い事業の売却を大胆に進める一方、大型買収で事業の入れ替えを敢行した。20年には火力発電事業から撤退し、逆に、再生可能エネルギーの普及に欠かせない送電ロスを抑えられる高圧直流送電(HVDC)技術を持つスイス重電大手ABBの送配電事業を、約7500億円の巨費を投じて買収。事業転換の「本気度、スピードが(他社と)異なる」との声も多い。

 4月からは、脱炭素に関連が深いパワーグリッド、エネルギー、原子力、鉄道のビジネスユニットを小島啓二社長がまとめて統括。意思決定のスピードを高めて、競争の厳しい脱炭素市場で収益最大化を目指す。

 「(巨額赤字に転落した)当時、このままでは本当に会社がなくなると思った」。サステナビリティ推進本部の高橋和範副本部長は振り返る。時代の要請と向き合い企業変革を続けなければ、市場から退出を迫られる。その実感が、日立の脱炭素経営の下地にある。

 あるべき将来の姿を見据えて高い目標をまず掲げて、そこに到達することを前提に様々な策を講じる「バックキャスティング」型の脱炭素経営に挑んでいるのも、そのためだ。東原敏昭会長兼最高経営責任者(CEO)は菅義偉政権の「50年カーボンニュートラル(炭素中立)宣言」に先立つ20年5月、30年度までに自社の生産活動で炭素中立を実現すると宣言。従来目標を大幅に引き上げた。日立はさらに昨年9月、50年度までにサプライチェーン全体の二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにすると発表。サプライチェーン全体で「50年度までに10年度比で8割減」としていた目標を引き上げた。

 東原CEOの決断に対して、日立グループ各所から「本当に達成できるのか」と困惑の声も上がった。だが、現状の延長で既に達成が確実な目標を設定していては、産業のゼロカーボン化を目指す世界の先頭集団に残ることができない。

 ではどうするか。日立は高い目標に向けて着実に歩みを進めるために、様々な角度から脱炭素施策の実行を担保する「仕組み」を導入している。この点でも高評価を得た。

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