NHK放送文化研究所が1973年から5年ごとに実施している「日本人の意識調査」では、生活全体の満足度について聞いている。最新の2018年の調査で「満足している」と「どちらかといえば、満足している」と回答した割合は合わせて92%と、調査開始以来の最高を記録した。消費支出が最高額に達したころの1993年の調査結果と比べて、消費量は減る一方、生活全体に満足している人は5ポイントも増えた。消費支出と生活満足度の相関関係は崩れ始めている。

 3Cや三種の神器などの耐久消費財をはじめ、すでに家の中はモノがあふれかえっている。ニッセイ基礎研究所などによると、日本の家庭に眠る不用品の総額は37兆円にも上る。

 これ以上モノを買い集めても、満足感を得るのが難しくなっているのではないだろうか。「物質的にはある程度豊かになり、今後は心の豊かさに重きをおきたい」という日本人が6割に達するのもうなずける状況だ。

 2回目の東京五輪が消費拡大の起爆剤にならなかったのは、こうした価値観の変化も背景にありそうだ。

デフレでも幸せな家族

 再び淡路島――。

 池田征史氏と彩美氏は「遠くからよくいらっしゃいました」と自宅マンションに迎え入れてくれた。パソナに勤める共働き夫婦だ。

半年前に生まればかりの3人目の子どもと池田征史・彩美夫妻
半年前に生まればかりの3人目の子どもと池田征史・彩美夫妻

 「東京で任されていた営業職から身を引いて、職場環境を変えたかった。自然が多い土地で子育てもしたかった」と言う征史氏が、彩美氏を説得し、子ども2人を含む一家4人で3年前に淡路島に移り住んだ。

 征史氏は、「東京に住んでいたころは、部下を連れてよく飲みに行っていた。上司として多めに支払っていたので、貯蓄に回せるお金はどんどん減っていった」と振り返る。淡路島に移住してからは飲みに行く機会を減らし、出費を抑えた。

 それだけではない。「定食屋で焼きそばを頼んでも380円だ」と征史氏が言うと、彩美氏はすかさず「勤務先が東京・丸の内にあったころ、ランチ代は1300〜1500円もした」と続けた。「子どもたちがよく食べるミニトマトも、300円出せば30〜40個買えてしまう。東京だと200円で10個ぐらいかな」と笑う。

 自宅は東京のころより広いにもかかわらず、家賃は4分の1まで下がった。

 夫妻の収入は東京時代とほぼ変わらないまま支出が減ったので、消費性向は下がった。まさに安倍氏が東京五輪の開催で払拭を試みた「デフレ、縮み志向」を体現する家族である。

 それでも征史氏は「幸福度は上がった」と語る。「経済的に余裕が出てきたことで、3人目の子どもをつくることができたからね」と、昨年12月に生まれた、初めての男児をあやしながら言った。

 間もなく東京五輪が開幕する。

この記事はシリーズ「1964と2021 ニッポンの「今」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。