新型コロナウイルスのワクチン接種で、日本は先進国のなかで出遅れた。数量を確保しつつあるものの、接種手順の計画性に乏しく、進度の地域差が大きい。打つ場は診療所か市役所か、はたまた大手町か職域か。騒動が意味するものとは。

 「地元の診療所にあなたの『かかりつけ医』ではありませんと言われて……」

 6月下旬。札幌市のワクチン集団接種会場となっている札幌パークホテルから出てきた70代の女性は苦い表情を浮かべた。年に2~3回訪れる診療所に連絡したが「通院の頻度が足りませんね」と予約を断られた。仕方なく集団接種の専用回線に数日、電話をかけ、ようやく1回目の接種ができたという。

 6月、日本中で多くの人がワクチン接種を巡る不満を募らせた。「夫は職域の予約が始まり、市役所からも接種券が届いたのに妻の私には何も来ない」「隣の市は1カ月前に接種が始まっている」。なぜ、こんな騒動になったのか。

 国は接種方針を自治体に任せ、さらに自治体の多くは大規模会場を用意する集団接種よりも地元の診療所で受け付ける個別接種で、まず乗り切ろうとした。公共団体のコンサルティングに関わってきた医療関係者は「副作用への対応や、煩雑な事務を避けたい市町村も少なくない。自治体が責任を負う集団接種会場より、各医院に任せるのは自然な流れだった」と振り返る。

 厚生労働省は5月26日、医療人材の確保について各自治体に文書を出した。「まずは地元の医師会の先生と率直に相談してみてください」「一緒に考えてもらえるような関係ができれば理想的です」。何とも投げやりなお願いだ。

 一緒に考えてもらう関係を築けない自治体は集団接種も個別接種も遅れる。北海道は65歳以上の1回目接種率が47%(7月1日時点)と全国最下位。「広いから」と思うかもしれないが、人口10万人当たり医師数は243人と、千葉(194人)や埼玉(169人)より多い。

 札幌市北区は約60の医療機関のうち、「かかりつけ医でないとワクチン予約を受け付けない」ケースが3分の2を占める。冒頭で紹介した女性はこうした対応に翻弄された一人だ。しかも「かかりつけ医」は「地域の状況により相当に幅があり、定義はない」(厚労省による国会での答弁)。高齢者が近所で打ちたいと思っても、受け入れるかどうかは診療所のさじ加減で決まる。

 日本は年間100兆円超に膨らんだ一般歳出のうち社会保障が4割近くを占める。診療所で弾かれているのは普段通うことが少ない人なので、健康を維持している人とも言える。病気でもないのに足しげく診療所に通う高齢者が優先され、国の借金抑制に貢献していると捉えることもできる高齢者が不利な扱いを受ける矛盾が起きている。

 国→市町村→診療所と接種を任せる流れのなか、接種が進まない現状を医師として何とかしようと手を挙げた札幌市内の眼科があった。かんし眼科医院の柳比奈子医院長は1人で注射し続け、約3000件の予約に対応している。

 市の担当者から「できる限りお願いしたい」と重宝され、木曜の休診日も返上。通常の診療時間を短くし、朝8時から夜8時まで毎日ワクチンを打つ。65歳未満への接種を本格化するには「人手が必要」(柳氏)で、追加の医師を募集。応援が来るのを待ちわびている。

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