東京オリンピック代表の座をかけた陸上日本選手権男子100メートル決勝。まれに見る激戦を制した多田修平選手の強さを支えた「日誌の力」とは? 『最高の教師がマンガで教える勝利のメンタル』(原田隆史著、日経BP)の一部を抜粋・再構成して解説します。

激戦の陸上日本選手権男子100メートルを制し、東京オリンピック代表の記者会見に臨んだ多田修平選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
激戦の陸上日本選手権男子100メートルを制し、東京オリンピック代表の記者会見に臨んだ多田修平選手(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 陸上男子100メートルの東京オリンピック出場をかけた日本選手権で、多田修平選手が優勝しました。持ち前のスタートダッシュでトップに立つと、中盤以降も素晴らしい走りでリードを保ち、まさしく完勝。9秒台の記録を持つ有力選手を抑えてオリンピック出場を決めた、見事なレースでした。

 多田選手がスプリンターとしての実力を伸ばしてきた背景には、「東京オリンピック100mでメダル獲得」という目標を掲げ(次回で紹介します)、毎日の練習や生活に取り組む態度をしっかりと自分で考え、メンタルを整える方法を学んできたことが大きいと思います。

 その自己管理のツールとなったのが「日誌」です。多田選手は高校時代に原田メソッドを学び、日誌をつけて毎日目標を書くことを始めました。

「高校に入って毎日、目標を書くようになり、それが今につながっている」

 多田選手は日誌の効果を次のように語っています(『月刊陸上競技』2017年12月号)。

 「中学生の頃は、目的や目標もなく、毎日、言葉は悪いですがタラタラただ練習をやっていただけの選手でしたので、高校に入って毎日、目標を書くようになり、それを達成したら、また新しい目標が生まれ、それを達成したら、また次と、日々の練習でも、その小さな目標に向かって打ち込むようになったことが今につながっていると思います。今年の最大の目標、今月の目標、今日の目標など、いろいろな目標を細かく書くので、その1つひとつを励みに日々の練習をがんばっていたのを覚えています」

 「毎日、朝練習の前に先生に用紙を提出するのですが、その目標を達成するために、日々自分なりに考えて行動していました。遠い先の目標より、自分的には、近い目標をクリアしていくほうが好きなタイプなので、それが毎日楽しくて、練習にも身が入っていたと思います。それを積み重ねていくことで、最大の目標に近づけると思っていたので、そのおかげもあり、高3のインターハイにも行けましたし、記録も伸びた大きな要因だと思います」

 「毎日、目標を書いてきましたが、その目標を書く際にも、その日の体調のことなどを考えたり、いろいろな要素、コンディションなどを考慮しながら書いており、そうした訓練ができていたことが、メンタルの強さにもつながっているのではないでしょうか」

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