猛烈な競争が繰り広げられるレッドオーシャンとなってしまった動画も、昔は良いものを作れば多くの人に見てもらえるシンプルな世界だった。だが、目を引きやすいタイトルやサムネイル、見てもらいやすい長さ、構成、音楽や字幕の使い方、SNSでのバズらせ方などが研究しつくされ、中身よりも、「見てもらいやすいポイント」を押さえているかどうかで勝負が決まることが増えてくる。商品の良しあしやイノベーティブかどうかより、ユーザーニーズを満たすもの、数字が取れるもの、再現性の高いものが中心になり、社会に生む価値の増加量が減ってしまう。

 しかしボイステック市場は、久しぶりに現れた新たな価値を生める新しい市場だ。これから「良いものを作れば売れる」という新市場の形成が始まる。そこで多くの企業は、いかに早くマーケティングや細かいスペックの微修正で勝負していた既存市場の価値観から脱し、新たな価値を提案できるかが問われることになるだろう。

発信者が爆発的に増加する

 ボイステック市場は、ウェブサイト上のテキスト情報や動画などと同一線上で語られがちだ。同じインターネットの世界をベースに生まれる市場なので、確かに似た部分もあるが、まったく異なるところも多い。

 「発信者」と「受信者」に分けて、テキストや動画に起きた変化と比較しながら分析することで、これから音声で起こる変化を考えてみよう。

 わかりやすいのは、いつでもどこでも聴ける(受信できる)ようになることで起きる、受信者側の受信時間の爆発的な増加の方だが、注目すべきは、発信者の増加の方にある。実は、発信者側の変化は、受信者側の変化よりもインパクトが大きいかもしれない。

 インターネット前の時代、テキストによる情報発信は、一部のプロの書き手に限定されていた。発信するすべは出版社や新聞社が独占しており、受信が簡単な一方で、発信はそれほど簡単なことではなかった。動画も同じである。動画を発信するためには特殊な機材が必要で、それを抱えたテレビ局が情報発信を一手に担っていた。

 これらを一気に大衆化したのがインターネットであり、パソコンやスマホだ。今は、ブログやSNSなどで誰でもテキストで情報発信ができるし、スマホがあれば簡単に動画を撮影してユーチューブやTikTokなどにアップできる。

 ただ、いくら大衆化したとはいえ、テキストによる情報発信も動画による情報発信も、それなりの手間と時間がかかる。10分で読み終わるテキストでも、いざ書くとなると10分間では書き上げられない。動画であればもっと時間がかかり、10分の作品を作るのに何時間もかける人はざらにいるだろう。

 その結果、今、テキストや動画で情報発信している人は、その道のプロか、手間と時間をかける余裕のある人のいずれかになっている。「書いたり、動画を作ったりするプロではないが、豊かな経験や思考を持ち、多くの人に関心を持ってもらえそうな情報を持っている。しかし、忙しくて発信する時間がない」という人は、発信することができなかった。

 一方、音声による情報発信は非常に手軽で簡単だし、時間がかからない。編集するよりも、むしろ思ったことをそのまま届けることに価値がある音声であれば、10分の音声コンテンツを作るのにかかるのは、(録り直しなどをしなければ)ほぼ10分だ。特殊な機材がなくてもいいし、見た目や周辺環境を整える必要もない。誤読のために文章を整える必要もなく、スマホの録音機能を使えばすぐに録音、発信ができる。

 ボイシーには、これまでブログや動画で発信していたインフルエンサーもたくさんパーソナリティーとして参加している。この動きは2018年ごろから生まれ始め、もともとユーチューブやブログなどで多くのフォロワーを抱えていたインフルエンサーたちが、音声に目を向けてボイシーを活用し始めた。家入一真さん、はあちゅうさん、イケダハヤトさんらが加わったのもこの頃だ。みなさん口をそろえて「音声の情報発信は手間や時間がかからず楽だから」という理由を挙げている。

 誰もが、スマホという手軽で身近な録音デバイスを持つようになり、音声配信プラットフォームも、さまざまなものが生まれている。テキストにとってのブログサービス、動画にとってのユーチューブやTikTokのように、簡単に音声情報をアップして配信できるプラットフォームが誕生し、急成長している。

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