ボイステックの「市場」としての魅力

 ここであらためて、ボイステック市場とはどんな市場なのかを見ていこう。なぜブルーオーシャンと言えるのだろうか。まずは「可処分時間」の視点から考えたい。

 テキスト、画像と来て、おそらく今、多くの人が着目しているのは動画市場だろう。いずれも「目」を占有しないと成り立たないメディアだ。しかし、だからこそおのずと、1日のうちで「見る」ことができる時間は限定されてしまう。

 コロナ禍前の、通勤前提のビジネスパーソンであれば、通勤途中の電車やバスの車中、昼休憩中、帰りの電車やバスの車中、帰宅後のリラックスタイム、もしかしたら入浴中、寝る前の数時間、せいぜいそんなところだろう。在宅勤務であっても、それはほとんど変わらないのではないか。通勤がなくなった分、むしろ減ったという人もいるかもしれない。

 一方、「耳」の可処分時間はどうだろうか。

 音声の最大の特徴は「ながら」ができることだ。朝の身支度をしながら、朝食を食べながら、仕事をしながら……。よく問題視される「ながらスマホ」も、画面を見るのではなく音声だけなら問題ない。移動しながら、家事をしながら、運動しながら。誰かと会話するわけでもないので、寝ているとき以外はいつでも両立できる。ワイヤレスイヤホンの普及によって、さらにそれが簡単になった。

 日本国民全体での、睡眠を除いた行動時間のうち、ながら聴きが可能な時間をざっと計算してみると、1週間で計約8.9億時間になる。ちなみにテレビやスマホなど、「目」のメディアが競合している時間は1週間で計約2.5億時間。もちろん、マネタイズの方法によっても大きく左右されるが、耳は目の3倍以上の可処分時間の「在庫」を持つことになる。

 せっかくデバイスが普及し、可処分時間が豊富になっても、聴くに値するコンテンツがなければ市場は拡大しない。

 しかし前述の通り、このブルーオーシャンに目をつけ、大量のコンテンツを投入するプレーヤーが増え始めている。アメリカや中国の市場で成長の味を占め、可能性を確信して日本でも展開しているアマゾンや米アップル、グーグル、スウェーデンのスポティファイ、中国のヒマラヤやライチFMなどだ。日本の企業も負けてはいられない。

 人とコンテンツが集まれば、広告市場も生まれる。既にその予兆は見えてきている。2019年に、電通がスポティファイとradiko(ラジコ、東京・中央)の音声広告配信プランを開始したほか、この年にはオトナル(東京・中央)も音声広告配信事業を始めている。

 デジタル広告の調査を行うデジタルインファクトによると、2019年のデジタル音声広告市場は約7億円だったが、2020年には約16億円と2倍以上に増加。さらに2022年以降は急速に市場が拡大し、2025年には420億円規模になるとみられている。スポティファイの1~9月期(Q1-Q3)の売り上げは、前年同期に比べて40%増加している。

入り乱れるボイステックのプレーヤーたち

 2021年4月にも、IT大手のボイステックに関する大きなニュースが続いた。

 GAFAの中でただ1社、音声市場への参入について沈黙を守っていた米フェイスブックが、今後数カ月のうちに、さまざまな音声関連の新サービスを投入することを明らかにした。音声投稿、クラブハウスのようなライブ音声チャット、ポッドキャスト視聴などの機能が加わることになりそうだ。

 さらに米マイクロソフト傘下のビジネスSNS(交流サイト)、「LinkedIn(リンクトイン)」も、ライブ音声チャット機能を開発中であることがわかった。そして4月12日には、音声認識の世界的企業で、アップルの音声アシスタントSiriに基盤技術を提供したとされる米Nuance Communications(ニュアンス・コミュニケーションズ)を、マイクロソフトが197億ドル(約2兆1600億円)で買収すると発表。マイクロソフトの企業買収では、2016年に262億ドルで買収したLinkedInに次ぐ2番目の規模だ。

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